万葉の植物  たまかづら  を詠んだ歌
                            2012.9.16 更新             

 
  
   たまかづら  (万葉表記   玉葛 )   ゴトウヅル  ツルアジサイ   (ユキノシタ科)

日本全土に分布するユキノシタ科の蔓性植物。根から気根を出し樹木や岸壁に着生して這い登り、アジサイに似た白い花を多数咲かせます。
周囲の4枚の花びらは装飾花(ガクが花びら状)。真ん中の白いのは両性花、種が出来ます。
良く似た花にイワガラミがあり、これは装飾花が2枚だけ。花期はアジサイと同じ頃、6から7月。

ユキノシタ
科だけあって、新芽はテンプラに、お浸しに。とても美味。
普通に見かけるのは、イワガラミ。
左写真は、尾瀬への道の途中、楢の大木の20mくらいの高さまでよじ登り、花を咲かせていました。したがって焦点をあわせることができません。
初夏の風に葉をひるがえらせ、蔓全体を揺らせている様子は、まるで神がかり。
下の歌の「ちはやぶる神が付く」という表現がすとんと心に落ちます。
  
    
   ← 良く似ているイワガラミ


 玉葛 実ならぬ木にはちはやぶる 神ぞつくといふならぬ木ごとに 
大伴安麻呂 巻2-101
蔓がどこまでも伸びる玉葛。花が咲いても、実はなりません。その玉葛には恐ろしい神が 憑いているのです。私たちの幸せを壊すと言われる神が。

 
 巨勢娘女、報へ贈れる歌
 玉葛 花のみ咲きて成らざるは 誰が恋ならめわが恋ひ念ふを  巨勢郎女  巻 2-102
大伴安麻呂の妻、田主の母。壬申の乱において大伴安麻呂は、大海人皇子側の将軍、対して巨勢娘女の父は、近江朝の大納言 巨勢人比等。巨勢郎女は父親と愛する人への思いの狭間にあって悩み苦しみます。やがて近江側の軍は総崩れ。父親は戦死。嘆く巨勢郎女の元へ、大伴安麻呂からの手紙が届きます。
旅人の母。運命に翻弄されるのは、この時代の宿命か。)