万葉の植物  つき   を詠んだ歌
                                2011.10.22 更新         

 
   
   つき (万葉表記  槻 )         ケヤキ (ニレ科)

山野に生える落葉高木。寿命が長く、25mにまで生長することもあります。 雌雄同株。花が咲くらしいけれど、なにしろ樹が高いのでいまだにこの目で見たことはありません。
樹勢が旺盛なことから、落葉するにもかかわらず、古くから呪的霊力を持つ神聖な木とされ、大きく広げた幹や枝の下は聖域とされました。
槻の木の下で儀式や行事が執り行われていたと伝わります。
『日本書紀』によると、法興寺(現在の飛鳥寺)の大きな槻の木の下で、蹴鞠の会があることを知り、中臣鎌子は中大兄皇子に近づく機会を狙っていた ...... かくて大化の改新が勃発し、蘇我氏を滅亡に追いやりました)

つき=つく=憑くから。
語源は、けやけき木、つまりきわだった素晴らしい木のこと。目立つ木でありますが。
牧野富太郎博士著 『牧野日本植物図鑑』 に、「けやけき木」 − 顕著な木 というのがその語源とあります。異説あり)

ケヤキの扇形の樹形は遠めに美しく、庭木(広大な庭が必要)として植えられたり、街路樹に植生され、ケヤキの木目は素直で狂いが無いことから、建築材 として利用されもろもろの器具へと加工されます。
都会ではこのケヤキの落葉の量が時に問題になりますが、このおおらかな姿を見て、ある感慨を持つ人間でありたいと思うのです。
(山形県東根市の東根小学校の校庭にある国の特別天然記念物 日本一のケヤキは、幹の周囲は15.7m、樹高は26m、樹齢は1000年以上と言われています。)


 うつせみと  思ひし時に取り持ちて.......(長歌)              柿本人麻呂 巻2-210 

 うつそみと  思ひし時にたづさはり.......(長歌)              柿本人麻呂 巻2-213
(210,213ともに妻の死を悼んで詠う挽歌。)

 速来ても 見てましものを  山背の高の槻群散りにけるかも        高市黒人 巻3-277
(高市連黒人の羇旅の歌八首。高市黒人は宮廷歌人とも羇旅の歌人とも伝わります)

 池の辺の小槻の下の小竹 な刈りそねそれをだに君が形見に見つつ偲はむ 柿本人麻呂歌集  巻7-1276 

 泊瀬の斎槻が下に我が隠せる妻  あかねさし照れる月夜に人見てむかも 柿本人麻呂歌集 巻11--2353
(神の宿る神聖な槻の木の下の女性...隠せる妻)

 天飛ぶや 軽の社の斎ひ槻  幾代まであらむ隠り妻ぞも          作者不詳 巻11-2656
(「天飛ぶや」は「軽」にかかる枕詞。空を飛ぶ雁 → 同音の「軽」を導きます。「斎ひ槻」とは神木。手の届かない神木のように人目を避けているのを悲嘆しています。)

 かむとけの 日香空の九月の.......(長歌)         作者不詳  巻13-3223

  山吹は なでつつおほさむありつつも 君来ましつつ 挿頭したりけり   置始連長谷 巻19-4302  
         (題辞に「天平勝寶六年)三月十九日家持の庄の門の槻の樹の下に宴飲する歌二首」と)