万葉の植物  ところづら  を詠んだ歌
                               2011.10.12 更新          

 

     
      雄花序                               雌花序

   ところ づら (万葉表記  冬薯蕷葛 )      オニドコロ (ヤマイモ科)

ところづらとはトコロのこと。野郎と書きます。
ヤマイモ科の多年生つる植物。ヤマイモに似ていますが、葉はヤマイモよりは広め。まったくヤマイモとトコロの判別は難しく、HDの中のフォルダには、今もヤマイモとトコロが一緒に保存されていて、お恥ずかしい限り。
ヤマイモは葉が対生し、それに対しトコロの葉は互生。しかし蔓がこんがらがっていて、うっかりすると間違えてしまうのです。
昔はこの根茎を食したのでしょうね。苦味を抜くのが大変ですが、煎じれば胃病や去痰の薬となったようです。雌雄異株。
根茎は太く髭根が多数あり、これを老人のひげに見たて「野老」の字を当てました。
長寿を意味しめでたいことから、根茎は正月の飾り物とする習慣もありました。

埼玉県所沢市の皆さん。
在原業平がこの野老(ところ)がたくさん生えているのを見て「ここはところの沢か 」と聞いたことから「ところざわ」という地名が出来たとの話を聞きました。
この那須でもトコロがあちこちに生えています。私が住む場所も下野の国、那須の郡、所沢という名前になっていたかもしれませんね。
「ところ)づら」の「づら」は、蔓を言い、葉の落ちた冬、その蔓をたどって太った根茎を掘りだしました。
その様子から「尋(と)め行く」を導く枕詞として詠まれます。また同じ音を繰り返すことから「常しく」を導きます。
集中2首。

 すめろきの 神の宮人ところづら いやとこしくに我れかへり見む    作者不詳 巻7-1133

吉野で作れるという5首中の1首。ところづらの蔓のように天皇に仕えてきた宮人のように、いよいよ長く天皇に仕え、この吉野を訪れようと思う)

 葦屋の 菟原娘子の八年子の 片生ひの時ゆ小放りに.......(長歌)     作者不詳 巻9-1809
(高橋虫麻呂歌集より。蔓をたどるように恋しい人を追いかけよう)(時間の長さも、このところづらで表現しました。)
  
  --- 靡付きの田の 稲 幹に 稲幹に 匍ひもとほろふ ところづら --- 『古事記』より 倭建命の死を悼んで。
 (大地を這い回り、亡くなった人を悼み、悲しみを表現する「匍匐礼」の様子は、このところづらになぞらえたもの)