万葉の植物 ちさ を詠んだ歌 2011.8.11 更新 |
|
ちさ (万葉表記
知左) エゴノキ (エゴノキ科)
(集中「山ぢさ」と詠まれています) 日本に広く分布する落葉小高木。しかし、関西ではあまり見かけませんでした。 花期は5月末から6月にかけて。(那須では) 樹高は15メートルくらいまでになることも。 素直に天に向かって伸びた大木の、枝一面に白い花を下向きに付ける様子は、初夏の林を彩るに相応しく、毎年この花に出合うと晴れやかな気持ちになるのです。 白い花弁は5枚が多く、4枚から10枚までの変異があるのを確認しました。 花の後、楕円状の果実をたくさんつけ、ぶら下がる様子もまた可愛らしく楽しいものです。 野鳥のヤマガラの大好物。我が家もヤマガラを呼ぶために庭に植え込んでいます。 果実は「えぐい味」がすることからえぐい→えごい→エゴノキと変化したようです。 見かけによらず果皮は有毒なサポニンを含みます。エゴサポニンは魚毒性があることから、果実をすりつぶして川に流し、浮いてくる魚取りに使われました。 また、サポニンは界面活性作用があることから、若い果皮を石けんとして使ったと言われます。 サイカチの実と使い方が似ていますね。 [補] イワタバコ説 「ちさ」をイワタバコとする説があります。 イワタバコは、イワタバコ科の多年草。 渓流沿いの水がかかるくらいの場所を好み、6月から8月にかけ紫色の花をつけます。 イワタバコ ヤマガラ(シジュウカラ科) |
息の緒に 思へる我れを山ぢさの 花にか君がうつろひぬらむ 作者不詳 巻7-1360 山ぢさの 白露重みうらぶれて心も深く我が恋やまず 柿本人麻呂 巻11-2469 (人麻呂にこんな歌があったのですね。花の盛りを過ぎ、露の重みに耐えているエゴノキの実と、我が恋とを並べるとさらに恋しさが募ります。) ちさの花 咲ける盛りに はしきよし その妻の子と 朝夕に 笑みみ笑まずも うち嘆き(長歌) 大伴家持 巻18-4106 (この歌には興味深い背景があります。越中国守大伴家持が、部下の史生尾張少昨(ししょうをわりのをくひ)が遊行女婦(うかれめ)に心を奪われて、連れ添った妻をないがしろにしているのを、教え諭した歌なのです。)(まず、結婚し子を得て円満な家庭を営んでいた頃を思い出させるため、「ちさ」の白い花が乱れ咲く様子を描写しています。) |