万葉の植物   しきみ   を詠んだ歌
                             2011.3.23 更新            

 
  
   しきみ (万葉表記   樒  之技美 )       シキミ  ( モクレン科)

関東以西の山地に生える常緑の小高木で、高さ3mくらいまで生長します。桜が咲くころ、淡い黄色い花を咲かせ、葉に艶があり椿の葉と同じような厚みがあります。「シキミ」は「悪しき実」がその名の由来。

秋に袋果がはじけ、けいれん性の猛毒を持つ種を弾き出すので、「悪しき実」と言われました。
枝や葉は香り、葉と樹皮を乾かした粉末は、抹香や線香の原料となります。
墓地に植えられていることが多いのは、全木に香りがあることから、死臭を消し、墓を鳥獣から守るとされたから。
関西では「シキビ」と呼ばれ、関東での花輪と同様に葬列に並べられ、その数が多いほど盛大な葬儀だと目されています。
万葉の時代にはまだ、シキミが縁起の悪い植物だという認識はありません。
写真に見られる通り、清楚な色合いの花がお寺に咲き、春風に揺れる様子は、(由来を知らずにいれば)なかなか麗しいものです。
神の住む山に生える木で、広義の「神の木・さかき」でした。
日本古来の神には「榊」をお供えし、渡来の神である仏には「木佛・シキミ」をお供えします。
仏前に供えられたことから、シキミは仏教の花と見られるようになったのでしょう。 

  奥山の 樒が花の名のごとや しくしく君に 恋ひわたりなむ   大原真人今城 巻20-4476

 (「奥山の 樒が花の名のごとや」は、「しくしく」の序詞(じょことば)。
  しきみ --- しきりに --- 重き(しき) --- 同音の「しくしく」を引き出します。)