万葉の植物  ささ   を詠んだ歌
                             2011.1.23 更新                 

 
    

   
ささ
 (万葉表記  小竹 佐左 左左 )      ササ類 (イネ科) 

「ささ」は小さいという意味。竹の仲間で小さいものの総称。
ミヤコザサ、アズマザサ、クマザサ、クスタケ、ヤダケ、メダケなど種類が多くて、特徴を見分けないと素人には弁別が難しい---。(頭をかかえています)
「ささ」は、ささめく、ささやくの「ささ」から来た---葉ずれてかすかな音を立てる草、という意見もありますが、私はこの見解に与したいですね。
林床に繁り、かすかな風に揺れてさわさわと音を立てている様子や、雉や野鳥が潜んでいる姿を思う時、「ささめく」という言葉がより身近になるのです。
笹の葉は、神の降臨するよりどころ。
古来、神前で神の心を慰め降臨を願う舞を巫女が舞いました。その手にあるのは笹。『古事記』に「天宇受売命(あめのうずめのみこと)が天の香具山の小竹葉を束ねて」とあるように、神が憑依した印に、笹を手に持ちます。
神前に奉納する歌舞を神楽(かぐら)と言い、神にこちらに降りていただくために、楽人が持つのが笹であり篠でした。ササを神楽と表記することがあるのもこのことからでしょう。では、タケとササの違いは?
筍が生長し、皮を落とすのがタケ。枯れるまで皮を付けているのがササ。
富山の鱒寿司に使われているように(クマザサ)防腐作用もあります。今日、1月23日は奈良南都7寺のうち、大安寺で笹酒祭りが行われているはずです。
竹の杯で酒をいただき、健康長寿とガン封じを願う祭り「光仁会(こうにんえ)」は、初春の行事とはいえこの寒さのなか、大勢の人を集めていることでしょう。
奈良時代、大安寺で後の光仁天皇(天智天皇の孫の白壁王・志貴皇子の息子)が、竹に酒をいれ温めて飲み、健康を願ったという故事にちなみます。白壁王は62歳で開運し皇位に付きました。 (林間煖酒焼紅葉をそのまま実行したのですね。お酒を飲むのは人生の楽しみのひとつ。それ知らない私はただ羨ましいばかり)
     
 

 笹の葉は み山もさやにさやげども 我れは妹思ふ別れ来ぬれば          柿本人麻呂 巻2-0133
(笹の葉のさやぎには神の霊が宿ります。神の世界に属している石見の山を越え来て、妻への思慕の思いが募ります。このサ行音の繰り返しに爽やかさを感じますね)

  はなはだも 夜更けてな行き道の辺の 斎笹の上に霜の降る夜を       作者不詳 巻10-2336
 (聖なる葉=斎笹・ゆざさ)

   笹の葉に はだれ降り覆ひ消なばかも 忘れむと言へばまして思ほゆ    作者不詳 巻10-2337

   馬来田の 嶺ろの笹葉の露霜の濡れて 我来なば汝は恋ふばぞも       東歌 巻14-3382

   笹が葉の さやぐ霜夜に七重着る 衣に増せる子ろが肌はも           防人の歌 巻20-4431
(妻の肌の素晴らしさを、霜に濡れた笹の葉になぞらえる。この発想の素朴さ)
 

ああ、今ひとつ悩んでいることがあります。
万葉の時代には清音が61音、濁音が27音もあったと言われています。
柿本人麻呂の歌の「さやにさわぐ」の「さ」を「ちゃ」と発音したという記述をどこかで読みました。
ならば、1首目は「ちゃちゃのは ちゃやにちゃやげども」と読むことになりますね。イメージが狂ってしまいそう。
どなたか古代日本語音声学に詳しい方、ご教授いただけ ませんか。