万葉の植物 さのかた   を詠んだ歌
                              2011.8.16 更新           

 
 
   さのかた (万葉表記  狭野方 )     アケビ   (アケビ科 落葉つる性)

山野に生えるつる性の植物。しばしば木に絡みつき、4〜5月ごろ新葉の間から、紫色の花を咲かせます。 (写真の三つ葉アケビの花の場合は)
手すりなどに這わせると風情のある風景ができあがります。雌雄同株。
左写真の大きい花が雌花。垂れ下がって咲いているのが雄花。(個人的好みでは)見かけはあまり良くない花と色です。
沢山花を付ける割に実を結ぶのはそのなかの1割くらいか。
果実は秋に熟し、大きさは6センチから10センチ。熟し始めると同時に口を開きます。こうなると野鳥や蟻、蜂との競争になるのです。美味。

アケビの利用の仕方

その1 果肉をそのまま食べる。大量にある種は、スイカを食す時のように、口から吐き出す。
     ぴゅぴゅっと飛ばすのも一興。したがって「外で」ですね。

その2
 果皮を茹でて取り出し、中に豚ミンチや葱などを練って詰めタコ糸で結び、蒸す、あるいは焼く。
その3 果皮を茹でたのち、細切りにしてキンピラにする。苦味が乙な味。

その4 長く伸びる新枝を摘み、茹でてお浸しに。かつおぶしを忘れずに。
その5 伸びた新枝を、茹でてざくざくと3センチくらいに切り、鍋で乾煎りする。ほうじ茶の出来上がり。
その6
 画材に。 絵をたしなむ人に差し上げると、喜ばれること請け合い。 これが一番でしょう。

甘いものに飢えていた子供の頃、秋のきのこ取りに出かけたその先で、たわわに実るアケビを見つけると心が弾んだものでした。そのうえ、珍しく山ぶどうにまで出合った日には嬉しさも倍倍増。
しかし、その場で食べることはしませんでした。持ち帰り兄姉たちに分けてあげた --- この心根の不思議さよ。
 

  さのかたは 実にならずとも花のみに 咲きて見えこそ 恋のなぐさに     作者不詳   巻10-1928

 さのかたは 実になりにしを今さらに 春雨降りて 花咲かめやも        作者不詳   巻10-1929
(アケビはもう実になってしまっています。いまさら春の雨が降って花が咲くようなことがありましょうか。婉曲に求婚を拒んでいるようですね。作者はもう決まった人がいるのでしょう。)
こんなに身近で、目立つアケビなのに、集中2首しかありません。パカッと口を開いた形があまりにあっけらかんとしていて、歌心を刺激しなかったのでしょうか。

蛇足  
ツチアケビ (ラン科)

   
まるで地面から生えているかのようなアケビ。これでもラン科植物なのです。
花の形状がラン科の特徴を備えていますね。腐生植物(菌従属栄養植物) --- つまりブナ科の植物の腐葉のお世話になっているのです。糖分を含むので熊や蟻が狙っています。毎年秋口にツキノワグマが現れるのはこのツチアケビを狙ってのことか。