万葉の植物 さいかち を詠んだ歌
                           2012.12.16 更新              


     

     しまったあの時撮影しておくのだった!

   さいかち (万葉表記  梍莢)    サイカチ  カワラフジ(ジャケツイバラ) (いずれもマメ科)

梍莢(サイカチ)に比定される2種類の植物があります。良く似ているサイカチとカワラフジ(ジャケツイバラ)。

 サイカチ (マメ科 )の落葉高木。別名カワラフジノキ。
日本の固有種で本州、四国、九州の山野や川原に自生し、実などを利用するために栽培されることも あります。比較的温かい土地の樹木なのか、ここ那須に来てから見たことがありません。
宮沢賢治の『さいかち淵』。読み返してみましょう。
さいかちよ。なぜにそのように敵対心を持つのか?
太く真っすぐに生長する幹や枝に棘が多数生え、これは猿が登るのを防ぐといわれていますが、はて?
実際は草食動物から身を守るためと言われます。棘は小枝が退化変形したもの。
葉は互生。羽状複葉。花は雌雄別で初夏に総状花序 --- つまり藤の花房に似た花を付けます。
秋には長さ20から30cmの、これも藤の豆果に似ていて、しかも曲がりくねった豆果をつけ熟します。若芽、若葉を食用とすることもある ようです。藤の実は炒って食べると美味ですから、きっとこのサイカチも美味しいのでしょうね。
木材は建築、家具、器具、薪炭用として利用されるほか、去痰薬、利尿薬として用いられます。さらに特徴的なのは洗浄剤として使われること。
サポニンを含むので古代からから洗剤として使われているます。さやを水に漬けて手で揉み、出てきたぬめりと泡を石けんの代わりにしました。
草木染の生地の洗濯に適している洗剤といわれ、髪を洗うのにも用いられていたようです。
マメ科ですから当然根粒菌と共生していて、樹木が光合成によって得た養分を利用し大気中の窒素を固定して栄養分として吸収しています。

 
カワラフジ (ジャケツイバラ) 古名は 「ざうけふ」

日当りの良い山野や川原にに自生する落葉低木。やや蔓性の茎には棘を持ち、その棘に邪気を払う呪力があると信じられていました。初夏、長く伸びた花穂に黄色く目立つ花をいくつもつけます。
関西在住時代でした。歌舞伎や浄瑠璃で知られた「小栗判官と照手姫」の熊野詣りに出てくる風吹峠の頂上あたりの山で、このジャケツイバラを見かけたことがあります。今もその記憶は薄れていません。印象的な花でした。
--- 善意の人々の助けを受けて熊野に詣で、熊野詣の湯垢離場である湯の峰温泉の「つぼ湯」の薬効により小栗判官の病はついに全快する---。このつぼ湯にも入浴したことがあったのに、惜しいことに当時はそのような意味を持つ湯との認識がありませんでした。
残念ですね。知らないということは。


高宮王の数種の物を詠める歌 --- 
梍莢、屎葛、宮仕えを折り込めという命題に従った歌。ここは歌人の腕の見せ所。巻16にはこうした歌が集められています。

 
梍莢に延ひおほとれる屎葛 絶ゆることなく宮仕えせむ   高宮王  巻16-3855
梍莢に延ひおほとれる屎葛」は「絶ゆることなく」を導く序詞。  サイカチは古代は洗剤として用いられていました。それに「クソカズラ」を取り合わせる妙。物名歌でもあり戯笑歌でもあるこの歌を詠んだ高宮王 は、奈良時代の歌人。王とあるから皇族でしょうが、伝不明。)