万葉の植物  むぐら   を詠んだ歌
                               2011.12.22 更新

 

   
        カナムグラ                   花期は秋の初め
 

     むぐら    (万葉表記  牟具良 六倉)       カナムグラ (クワ科カラハナソウ属)

カナムグラは日本各地に分布し、道端や林縁、土手などに茂り群落を作っています。カナムグラの茎には下向きに棘が生えていて、この棘で他の植物などに覆いかぶさり、繁殖していきます。イラクサに似ていますね。

むぐらとは、蔓で絡む雑草が密生した状態を言います。ヤエムグラという名前の植物もありますが、万葉に歌われたのは、この繁茂し放題のカナムグラ。 八重というのは幾重にも重なっている状態を言います。
                                [参] ヤエムグラ(アカネ科)

カナムグラの「カナ」は金物の「カネ」から。ためしに引っ張ったり、折り取ろうとしても本体は動じることなく、茎はほとんど針金で出来ているかのよう に強靭です。このことから「カナムグラ」と言う名前が付きました。
葎(むぐら)とは蔓が這って伸び、藪のようになるという意味。合わせると「針金のように強い茎を持ち、おまけに茎に棘まで生やした生命力の強い草」ですね。まったく。農家泣かせの植物なのです。

ビールの原料として使われるホップの仲間のカラハナソウがこのカナムグラの仲間。 聞けば身近に感じませんか。

     ←カラハナソウ    ← ヤエムグラ

  いかならむ 時にか妹を葎生(むぐらふ)の きたなき屋戸に入れいませなむ    大伴田村大孃  巻4-759

  (妹の坂上大孃 に贈った歌。いったいいつになったら貴女を我が家に迎えることが出来るのでしょう。)

 思ふ人 来むと知りせば やへむぐら 覆へる庭に玉敷かましを        作者不詳  巻11−2824 

  (思い焦がれている人がお見えになると予め知っていたなら、葎の覆い茂るこのむさ苦しい庭に 
   玉を敷きつめておくのでしたのに )

 玉敷ける 家も何せむ やへむぐら 覆へる小屋も妹と居りてば        作者不詳   巻11−2825 

  (玉を敷き詰めた立派な家など何ほどのものか。愛するお前と一緒に居られるのだけで幸せだよ。)
   2824と2825は相聞歌。

 葎はふ 賤しきや屋戸も大君の 坐さむと知らば玉敷かましを       橘諸兄 巻19-4270 

 (聖武上皇がの行幸に際し、臣下である左大臣橘諸兄が自分の家を謙遜して「葎はふ」と歌ったもので、決して庶民の貧しい家でを歌ったののではありません。
 「むぐら」の反対語は「玉」。天皇が世界の中心にあり、臣下が周囲に伏しているのが整った状態であると考えました。)
  

      八重葎茂れるやどの寂しさに人こそ見えね秋は来にけり   英慶 (拾遺集秋)