万葉の植物  みる  を詠んだ歌
                               2012.12.22 更新          

 

      栃木は海無し県 --。

   みる (万葉表記  海松 美留 水松 )     ミル (ミル科)

ミルは緑藻類の海草。茎は円柱形で二股にわかれ扇状に伸びることから、「ぼろのように垂れ下がっている」表現に使われます。またみる=見るから、見る目にかけて詠まれることもありました。
浅い海中の岩礁に着生している海草で、全体が濃い緑色。
枝の断面は円く、伸びるにしたがって規則的に二股に別れて広がり、40cmくらいまで生長します。
現在の日本では食べる習慣はあまりありません。古代には一般的に食用とされた海草で、租税としても納められました。

      
  着物や帯に使われる「海松模様」
みるを詠んだ歌は集中5首。いずれも長歌です。

 つのさはふ 石見の海の 言さへく 唐の崎なる 海石にぞ 深海松生ふる 荒礒にぞ 玉藻は生ふる 玉藻なす 靡き寝し子を 深海松の 深めて思へど さ寝し夜は 幾だもあらず 延ふ蔦の 別れし来れば 肝向ふ 心を痛み 思ひつつ かへり見すれど 大船の 渡の山は 黄葉の 散りの乱ひに 妹が袖 さやにも見えず 妻ごもる 屋上の 山の 雲間より 渡らふ月の 惜しけども 隠らひ来れば 天伝ふ 入日さしぬれ 大夫と 思へる我れも 敷栲の 衣の袖は 通りて濡れぬ   柿本人麻呂 巻2-135


 風雑り雨降る夜の雨雑り雪降る夜はすべもなく 寒くしあれば 堅塩(かたしほ)をとりつづしろひ 糟湯酒(かすゆざけ)うちすすろひて しはぶかひ 鼻びしびしに しかとあらぬ ひげ掻(か)き撫でて 我れをおきて人はあらじと誇ろへど寒くしあれば麻衾(あさぶすま)引き被り 布肩衣(ぬのかたぎぬ)ありのことごと着襲(きそ)へども 寒き夜すらを 我れよりも貧しき人の父母は 飢ゑ凍ゆらむ 妻子どもは乞ふ乞ふ泣くらむ この時はいかにしつつか、汝が世は渡る

天地は広しといへど 我がためは狭くやなりぬる 日月は明しといへど 我がためは照りやたまはぬ 人皆か我のみやしかる わくらばに人とはあるを 人並に我れも作るを 綿もなき 布肩衣の海松(みる)のごと わわけさがれる かかふのみ肩にうち掛け伏廬(ふせいほ)の曲廬(まげいほ)の内に 直土(ひたつち)に藁(わら)解き敷きて 父母は枕の方に 妻子どもは足の方に 囲み居て憂へさまよひ かまどには火気吹き立てず 甑(こしき)には蜘蛛の巣かきて 飯炊くことも忘れて ぬえ鳥の のどよひ居るに いとのきて 短き物を端切ると いへるがごとく しもと取る 里長が声は寝屋処(ねやど)まで 来立ち呼ばひぬ かくばかり すべなきものか世間の道   山上憶良  巻5-0892

  神風の 伊勢の海の 朝なぎに 来寄る深海松 夕なぎに 来寄る股海松 深海松の 深めし我れを 俣海松の また行き帰り 妻と言はじとかも 思ほせる君      作者不詳 巻13-3301