万葉の植物  くくみら  を詠んだ歌
                            2012.5.2 更新

 

    
     後ろは青じそ                    花の中心にすでに果実ができています。


   
くくみら  または   みら (万葉表記  久君美良 加美良 彌良 )   ニラ (ユリ科)

『古事記』には加美良(かみら)、『万葉集』には久々美良(くくみら)、『正倉院文書』には彌良(みら)とあります。古代には「みら」「くくみら」「かみら」と呼ばれていました。その後院政期頃から「にら」に変化しています。
「くく」は茎、「みら」はニラの意味。 くきにら → くくみら ニラの花茎が伸びたもの。

中国西部が原産。ユリ科の多年草。 花茎が立つのは夏の終わりの時期。花は半球形の散形花序で、白い小さな花を多数つけます。小さな星を散らしたような花でなかなか美しく、切花にすることも。花弁は3枚ですが苞が3枚あり、一見花びらが6枚あるようにも見えます。
葉や茎は食用もしくは薬用として古くから利用され、その独特の匂いは邪気を祓うとされていました。株分けやどっさり稔る種 であきれるほど増えていきます。
細長くすんなりと伸びた葉は加熱すると柔らかく、和食では汁の実や薬味やお浸しに、中華料理、韓国料理にもしばしば用いられます。 左写真の若い花芽もおひたしや炒め物として 食することが出来るそうです。今年は試してみましょう。

ニラはとても肥料食い。一度植えると増えることおびただしく、時に畑の邪魔者。しかし畑の縁取りに植えると土止めとして働きます。しばしば葉を切って更新させるほうがやわらかいニラを楽しめますね。
全草に独特の匂いがあ り、身体に精がつき仏道修行の妨げになるためか、禅宗の山門に「三厭五葷の入るを禁ず」と書かれていることがあります。
精進料理では五葷の一つとされ、匂いの原因物質は硫化アリル(アリシン)などの硫黄化合物。

「三厭五葷を食べない」というのは、
  「肉類・鳥類・魚類・ネギ・にんにく・にら・らっきょう・あさつきを食べない」ということになります。 にら、らっきょう、あさつき、にんにくなど、長い冬を越して春を迎えた喜びに満ちる味なのに---。今の季節の野蒜はどうなのか?にんにくの一種なのかもしれません。

集中1首のみ。
  きはつくの 岡のくくみら我れ摘めど 籠にも満たなふ 背なと摘まさね    東歌 巻14-3444
 (未勘国の歌)

(ここでの「背」は兄や夫をさす言葉です。背な、と親しみの情を込めて
歌いかけます。野で韮を摘む女性たちの問答が歌になっています ね。なかなか籠にいっぱいにならないな。ではあなたのだんな様とお摘みなさい、との掛け合い。労働といっても韮摘みだと楽しい作業でしょう。)