万葉の植物  こなら  を詠んだ歌
                                         2011.3.21 更新

 

    
   雄花 雌花は葉の付け根に小さく咲く


   こなら (万葉表記  小楢  許奈良  楢 )       コナラ (ブナ科)

日当たりを好む落葉高木。高さ20mにまで生長したコナラの姿には圧倒されます。(写真右)
那須での花期は5月中旬。新しく芽吹いた葉の下に、黄褐色の雄花の長い花穂を下げ、雌花は目立たず葉の付け根にひっそりと花を咲かせます。
薪炭、しいたけの原木、建築、家具などに使われますが、Yama家では主に「しいたけの原木」として利用しています。

秋に細長いドングリとして実を稔らせ野生動物、特にリスや熊にとっては重要な食物ですが、人間が食すにはタンニンが多いので、あく抜きが必要。
このドングリが山に少ない年に起きること --- 我が家の近くまでツキノワグマが出没し、熊よけ鈴が散歩必携品になります。

左写真のように、若々しく光り輝くような若葉を付けた細枝が、右写真のように天に伸びる堂々たる老木に育つの要するのは約50年間。
若い女性と、今や家刀自と成った老女になぞらえてしまうのです。

  

集中1首
  下つ毛野 みかもの山のこ楢のす まぐはし子ろは 誰が笥か持たむ    東歌  巻14-3424

みかもの山とは、栃木県佐野市(下野の国)にある三毳山(みかもやま)のこと。高さ229m。
古くは東山道の三鴨の関があった所。

カタクリやイチリンソウが春早くに花開き、遅れじと薄みどりの小楢の芽吹きが林を彩ります。
笥(け)とは食器を言い、「笥を持つ」とは結婚することを意味しました。
万葉びとは、笥を魂の宿る器だと考えていました。今も一人ひとりがご飯茶碗を持つことに、この時代の思いが残されていますね。
思いを寄せている「ま麗し児ろ」が誰と結ばれるのか----。
神の山と信じられていたみかもの山に芽吹く小楢の若葉を通して降り注ぐ、晩春の日の光を受けて立ちすくむ若者の純な気持ちが伝わってくる歌ですね。)こならのす = こならなすの訛り。


コナラの古名は「柞・ハハソ・ははそ」。
 山科の 石田の小野の柞原  見つつや公が山道越ゆらむ   宇合卿 巻 9-1730 (不比等の三男)

「ははそ」は都のある奈良地方の標準語であり、「コナラ」は東国の方言だったと考える説が有力です。
昔の方言が標準語を凌駕したということでしょうか。
更に「ははそ」は現在のコナラの他に、姿や形が似通ったブナ科のミズナラやクヌギなどブナ科の植物の総称としても使われたようです。
 
そして、コナラが「ナラ・奈良・楢」にと変化して行きました。「奈良」の語源はこのコナラが多く生える地から。
 風そよぐ ならの小川の夕暮れは 禊ぞ夏の しるしなりける  藤原家隆(1158〜1237)

  (禊とは、毎年旧暦の6月30日に京都市北区の上賀茂神社内を流れる御手洗川で行われる六月祓)