万葉の植物  こなぎ  を詠んだ歌
                               2011.10.11 更新          

 

     
     ひそやかに咲くコナギの青紫の花               受粉し、すかさず種を結ぶ

   こなぎ なぎ (万葉表記  小菜葱 子菜葱 小水葱、子水葱  水葱 奈宜 奈技 )  
      
コナギ 又は ナギ (ミズアオイ科) 

種子で殖える一年性の水田雑草。  コナギで検索すると「雑草の退治方法」が多数ヒットします。
稲作の伝播と共に日本に渡来。 史前帰化植物。古代では栽培されていて、旬は夏。
大きく生長し美しい青紫色の花を咲かせるナギまたはミズナギは、コナギの仲間のミズアオイの別名。
かつて食用に栽培されたミズアオイの古名は「葱(なぎ)」と呼ばれ、ミズアオイを小さくしたようなこの植物は「コナギ・小葱(こなぎ)」と呼ばれるようになりました。
茎は根元で中心から数本に枝分かれし、広がります。長い柄の先に葉が付き、葉身は ふくらみを持ちその形はさまざま。生長段階によって変化しているようです。全体は水の流れに添うようにふにゃふにゃとやわらかく、葉はつやがあって鮮やかな緑色。
短く細長い塊状の花穂を出し、小さい青紫の花をひそやかにつけます。受粉後には花穂は萎れ下向きに り、その種袋を潰してみるとみっしりと種が詰まっていました。繁殖力旺盛な理由がよく理解できますね。種袋は熟すと破裂し、種子は水面 を漂い田に広がります。

コナギとナギの違いは、
コナギの茎は短く、葉は一枚で卵心形。花序は短くて葉よりも低い位置に付け花の数も少ない。
ナギ(ミズアオイ)は、茎は20〜30cmと高く、何枚かの心形の葉を付ける。花序は長く葉よりも上に伸び沢山の花を付ける。
どちらもかつては食用でしたが、現在は田の雑草として邪魔者扱いされます。しかし、時期の花の美しい色は忘れがたいものがありますね。
 
 春霞 春日の里の  殖子水葱(うゑこなぎ) 苗なりといひし 枝はさしにけむ     大伴駿河麻呂 巻3-407

(大伴宿禰駿河麻呂、同じ坂上家の二孃を娉ふ歌一首。子水葱はもう葉を伸ばしだろうか。あの娘も大きくなっただろう。殖子水葱、すなわち栽培していたのですね。今や雑草です)

 上毛野 伊香保の沼に 植ゑ子水葱(こなぎ) かく戀ひむとや 種求めけむ      東歌 巻14-3415                

 苗代の 子水葱が花を 衣に摺り 馴るるまにまに 何(あぜ)か愛しけ         東歌 巻14-3576   

(青紫色の花を摺り付けて染めました。きれいな空色に染まるのでしょうか)             

   
 醤酢に 蒜搗き合(か)てて 鯛願ふ われにな見せそ 水葱(なぎ)の羹(あつもの)
                                長忌寸意吉麻呂    巻16-3829 

  (これはミズナギではなくてミズアオイを詠んだ歌。酢、醤(ひしほ)、蒜(ひる)、鯛、水葱を詠む歌。物名を詠み込む歌。鯛を食したいのに、(あのまずい)水葱(なぎ)の羹(あつもの)など見たくもない。)