万葉の植物 かほばな  を詠んだ歌
                             2011.10.7 更新            

 

  
     ヒルガオ                            ムクゲ 

  
     ハナショウブ (カキツバタではありません)           オモダカ   
 


   
かほばな (万葉表記  容花 貌花 可保婆奈 可保我波奈 )       

万葉人はこの「かほばな」として、どの花を頭に描いていたのか特定しにくく、多くの説があります。
ヒルガオ、カキツバタ、オモダカ、ムクゲなど。
美しく艶やかな花、すなわち「かほばな」と考えると理解しやすいかもしれません。

  ヒルガオ (ヒルガオ科)ヒルガオ科のつる性植物。朝顔同様朝花を開きますが、昼過ぎまで花がしぼまないので昼顔・ヒルガオ。
地下茎で増え、夏の繁茂たるや抜き去るのに根と格闘するくらいです。結実しないので交配しません。したがって古来からこの薄いピンクの色が道端に咲いていたことになります。

  ムクゲ (アオイ科)落葉低木。裏庭のムクゲは10年前、10センチほどの挿し穂を植えたもの。今や3メートルの高さにまで育ち、夏から秋にかけて艶やかな花を見せてくれます。

  カキツバタ (アヤメ科)
 写真の花は仲間のハナショウブ。気持ちのうえではカキツバタによく似ているので載せました
いずれがアヤメカキツバタ。このハナショウブはその中間のやや湿気た土地に生育します。この花の美しさは、やはり「かほばな」ですね。

  オモダカ (オモダカ科)
別名「ハナグワイ」。お正月に食すクワイ・慈姑は、オモダカの栽培改良種。語源は人面に似た葉が水面に突き出しているから。または中国の言葉で湿地を意味する「
涵澤(オムダク」から来たとも。
ほとんど田の雑草化していますが、花は美しく土の色のなかに咲く様子はやはり「かほばな」。
 

 高円の 野辺のかほ花面影に見えつつ 妹は忘れかねつも         大伴家持  巻8-1630

 (聖武天皇の行幸に同行し、伊勢から山城への道の途中、奈良の都に残してきた妻・坂上大嬢に贈った長歌の反歌。あなたは美しい、目に浮かんできて忘れられない。 --- こんな歌を受け取ってみたい、と思いませんか。題辞に季節はいつか書かれていないので、かほばなとはどの花か、想像するしかありません。ムクゲの印象が強く残ります。)

 石橋の 間々に生ひたるかほ花の 花にしありけりありつつ見れば     作者不詳  巻10-2288

 (川に置かれた飛び石の間に咲いている --- すなわち水生植物でしょうか。ではカキツバタ、またはオモダカの可能性も。)

 うちひさつ 宮能瀬川のかほ花の 恋ひてか寝らむ昨夜も今夜も      作者不詳  巻14-3505

 (宮能瀬川のかほ花とはいったいどの花か。水の流れと美しい花の取り合わせが爽やか)

 美夜自呂の  をかへに立てるかほが花な 咲き出でそねこめて偲はむ  作者不詳   巻14-357

 (人目に付かないようにひっそりといてください。私は一人偲んで美しい人を賛美しましょう。をかへに咲く花、つまりこの場合はヒルガオか)