万葉の植物  かはやなぎ   を詠んだ歌
                             2011.2.10 更新

 
    

   
かはやなぎ (万葉表記   川柳 河楊 川夜奈支 猫柳 )  ヤナギの総称(ヤナギ科)   
       
かはやなぎは水辺を好み、川岸などに自生する落葉低木で、春早くに芽を出し、季節の巡りをいち早く教えてくれる春の先駆けの植物です。
春を迎えて弾む心を言葉に変えて自然と共に、そして人と共にある喜びを歌い上げる --- 刈り取ってもすぐまた生えてくる再生の早さや生長力を、抑えても湧いてくる恋心にたとえます。
歌から、春の到来を喜ぶ万葉びとの、しなやかな感覚を読み取ることができますね。
雌雄異株。雄花の花穂のほうが長くふっくらとしています。
ネコヤナギとは良く言ったものです。花穂を触るとつややかなビロードのようで、指の間からつるりと滑り落ちてしまいます。猫のほかに、犬の子に見立てた場合は、「エノコロヤナギ(狗子柳)」。用途は正月の柳箸、弓の材料に、キノコの栽培に。
葉をお茶に、花を食用に(!)とありますが、いまだかつて柳茶など飲んだことがありませんし、花を食べようとも思ったことありません。「楊」は普通のヤナギに、「柳」は枝垂れる柳に使われます。

「柳絮(りゅうじょ)飛ぶ」とは春の季語。種をはこぶ綿毛が、ふわふわ明るい日差しのなか飛び交う様を言います。
高校生の頃でした。赤銅色の顔、その顔をふさいで垂れ下がる霜髪、堂々たる体躯の漢文の先生が仁王様のように立ち、教壇から我々を見下ろし「柳絮 飛ぶ」内容の漢詩を朗じて下さったの記憶が今も鮮明に残っています。

   二月の柳絮は軽やかに微かに
   春の風に乗り、人の衣にまといつく
   南へ飛び、また北へ飛んで去る  

那須で柳絮が飛ぶ季節は、5月。晴れた暖かい午後。
 

 霰降り 遠つ淡海の吾跡川楊 刈れどもまたも生ふといふ 吾跡川楊 (旋頭歌)   人麻呂歌集 巻7-1293

 かわづ鳴く 六田の川の川柳の ねもころ見れど飽かぬ川かも          作者不詳  巻9-1723 

 山の際に 雪は降りつつしかすがに この川楊は萌えにけるかも        作者不詳 巻10-1848

  山の際の 雪は消ざるをみなぎらふ 川の副へらば萌えにけるかも       作者不詳 巻10-1849

 楊こそ 伐れば生えすれ世の人の 恋に死なむを如何にせよとぞ        作者不詳 巻 14-349