万葉の植物  いちし  を詠んだ歌
                             2011.10.2 更新

 

  
 ンバナ(ヒガンバナ科) 後ろは秋蕎麦の白い花         クサイチゴ (バラ科)   
 エゴノキ (エゴノキ科)     イタドリ (タデ科)     ギシギシ(タデ科) スイバとも
  

   いちし (万葉表記   壱師  )     

いったい万葉に歌われた「いちし」は上掲のどの花に当たるのか?

クサイチゴ説
イチシとはいちじるしの意味。このクサイチゴの純白の花は5弁で、道端の雑草のなかで一段と目立つ花。いちしこ → いちごか。春の白い花も、5月の赤い実も緑の中に補い合う色で初夏を彩る草本状の木本。

エゴノキ説
落葉小高木で裏庭のエゴノキは高さ5mくらい。初夏に五弁の白い花をふさふさ咲かせます。綺麗で可愛らしい花。ところが樹皮や実には有毒のエゴサポニンを含みます。石けんの木としても知られ、古い時代から生活に根ざしていた植物と見られます。
しかし、道端を歩いていて頭上の白い花に気づくか、すこし疑問が残ります。

ギシギシ説 (スイバ説)
羊蹄は漢名で和名はギシギシ。古い時代は「シ」と称していました。接頭語として「いち」を付けると「いちし」となるという説。
子供の頃、新芽を折り取って食したものでした。味は、酢っぱいほうれん草。

 
イタドリ説
「シ」は羊蹄の字で表せるが、酸味を持つ茎や根を言うことから、上記スイバやこのイタドリなどを含みます。

ヒガンバナ説
現在の所、ヒガン花(彼岸花・マンジュシャゲ)がその最有力候補です。
いちしろく、を白い花と受け取らずはっきりとした明るい色の花と解釈すると、納得できますね。
いま、那須では道端に、畑や田の畔にこのヒガンバナの燃えるような赤い花が最盛期を迎えています。歩いても歩いても道傍には輝く赤い花 ---  那須の山が紅葉を始める、その尖兵のような存在。

さて、あなたはどの説を支持しますか。
 


  道の辺のいちしの花のいちしろく人皆知りぬ我が恋妻は    柿本人麻呂歌集  巻11-2480

   或本歌曰    いちしろく 人知りにけり 継ぎてし念へば  

    (寄物陳思の歌。イチシの花に託して恋する気持ちを表現する --- 物に寄せて心を陳べる。詠み人の心を慮ってみるとこの花がどの花に当たるのか分かるかもしれない、というほのかな期待を抱きました 。)

「いちしろく」をどのように考えるか。
   天霧らし 雪も降らぬかいちしろく このいつ柴に降らまくを見む    若桜部君足  巻8-1643
    いちしろく しぐれの雨は降らなくに 大城の山は色づきにけり     作者不詳   巻9-2197
   旅にして 妹を思ひ出でいちしろく 人の知るべく嘆きせむかも    作者不詳   巻12-3133

「いちしろく」 とは。 明るい、輝く、はっきりと、明白に、明らかに外に出る、目立つ。
万葉人はこの感覚に惹かれたようです。

いずれかの説を採って、この歌を味わってみるのも一興です。
まったく個人的感慨ですが「クサイイチゴ」の白い花に惹かれます。