万葉の植物 ひし  を詠んだ歌
                              2012.12.22 更新           

 

      

   ひし (万葉表記  菱)     ヒシ (ヒシ科)

そう言えば水田耕作用のため池から採取して、子供の頃に食べたような記憶があります。日本全国の湖沼に生える一年性の草本。水の底の泥の中から発芽し芽を伸ばし、水面に葉を放射状に広げます。葉は菱形。葉柄はふくらんでいて空気を含み、浮き袋の役目を果たします。
ホテイアオイのように完全な浮き草ではなくて、茎で地中と結ばれています。
花は初夏から晩夏まで咲き続け、花の後は水中に沈んで果実になります。果実は菱形。2本の鋭い棘があることから、昔は乾燥させたものを忍者が追っ手の追撃をかわすために撒く「マキビシ」として使ったと言われますが、はて実用性があったのか?
果実はでんぷんと蛋白質を含み、若い時期はそのまま、熟した果実は茹でて食します。
の実の棘は普通2本で、オニビシやヒメビシは4本の棘を持ちます。
菱の実の形はさまざまでひしゃげたもの、歪んだものなどあり、ひしゃげた → ひし と名づけられたと言う説もあります。
      
集中2首。いずれも大切な人のために袖を濡らしながら摘む様子を詠っています。

 君がため浮沼の池の菱採むと我が染めし袖濡れにけるかも    柿本人麻呂歌集  巻7-1249
 
  (袖が濡れたっていいのです。恋しいあなたのために菱の実を摘むのです。この愛の形よ。)

 豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ     消奈行文 16-3876

  (私のために摘もうとして、あの娘は袖を濡らしてしまったのだろうか。)