万葉の植物  春菜   を詠んだ歌
                            2011.2.25 更新

  

    
    フキノトウ  蕗の薹                            ツクシ 土筆


   
はるな 春菜    (万葉表記   春菜  若菜  )

冬の寒さがゆるみはじめたころ、早春の野に緑の芽をもたげてくる、食用になる野草や菜の総称。
特定の植物を指すのではありません。万葉集では「春菜」と書いて「若菜・わかな」と読ませることもあります。万葉人は、植物が芽を出す様子を、霊力の現れだと考えていました。春の霊気を身体に取りこみ、冬の間に衰えた生命力を甦らせ、活力を取り戻すため春菜を摘んで食しました。
不足したビタミン類を摂るために、春菜を食すのはまったく合理的ですね。 独特の苦味は、寒さにちじこまっていた身体の毒素を排出するのに役立つそうですから。

「若菜」で思い出すのが、次の歌:

 君がため 春の野に出でて 若菜つむ  わが衣手に 雪は降りつつ      光孝天皇

正月7日は5節句のひとつ、人日(じんじつ)。七種の植物を入れた羹(あつもの)を食すと、万病を防ぎ災いを防ぐことができるという中国の風習が伝えられ、朝廷にも取り入れられました。
不老不死を願いながら青菜を摘む天皇の姿が、春の日に輝いています。このしあわせな「君」とはいったいだれ?
今に伝わる「七草粥」の行事は、この春菜摘みからきています。
 
 七日 雪間の若菜摘み 青やかにて 例はさしもさるもの ---- をかしけれ 『枕草子』

ここ那須で、春浅い頃から摘める野草は----- ハコベ ヨメナ ハハコグサ セリ モミジガサ オケラ トトキ アザミ チョウジソウ セリ ヨモギ タデ ネマガリタケ タラ  シュンラン ミヤマイラクサ ミツバ アサツキ ウド コシアブラ ノビル ツクシ ゼンマイ ワラビ コゴミ ユキザサ シオデ  ギョウジャニンニク ヤブカンゾウ ----など。

我ながら豊かな暮らしを送っていることをもっと喜ばないといけませんね。 
今朝、裏庭にフキノトウを見つけました。もう少し大きくなるのを待って蕗味噌にしましょう。

春菜(はるな)・若菜(わかな)を詠んだ歌。万葉集には、7首に登場します。
 

篭もよ み篭持ち 堀串もよ み堀串持ち この岡に 菜摘ます子.......(長歌)        雄略天皇   巻1-01

 春山の 咲きのををりに春菜摘む  妹が白紐見らくしよしも            尾張連   巻8-1421

 明日よりは  春菜摘まむと標めし野に 昨日も今日も雪は降りつつ          山部赤人  巻8-1427

 難波辺に 人の行ければ後れ居て  春菜摘む子を 見るが悲しさ          丹比真人 巻8-1442   

 国栖らが 春菜摘むらむ司馬の野の  しばしば君を思ふこのころ           作者不詳  巻10-1919

 川上に 洗ふ若菜の流れ来て  妹があたりの瀬にこそ寄らめ            作者不詳  巻10-2838:

 大君の 任けのまにまにしなざかる  越を治めに出でて来し.......(長歌)       作者不詳  巻17-3969