万葉の植物 はまゆふ   を詠んだ歌
                             2012.5.3 更新

 

     
       ハマユウ                               インドハマユウ 

   はまゆふ  (万葉表記  浜木綿)      ハマユウ  (ヒガンバナ科)  ハマオモトとも

暖地の海岸に生える常緑の多年草。日本では関西から西に分布。特に九州の海岸や、紀州からその南の熊野にかけての海岸に多く見られます。
葉には厚みがあり、つやつやと日の光を受けて輝きます。高さ1メートル近くにまで生長することも。
夏、細く裂けた白い花を花火がはじけるように咲かせ、花には甘い香りがあるそうです。
植物事典によると、花が完全に開くのは夜間だとのこと。惜しいですね。
さて、実です。
丸々としたコルク質の皮に包まれ、「水に浮きます」。波にさらわれ旅行者として海を漂い、たどり着いた土地で新しい人生を送るのでしょう。ヤシの実の殖え方に似ていませんか。

花が神さまに祀る「木綿・ゆふ」に似ていて、海岸に生えることから「はまゆふ」。
やわらかくて美しい、けれども生命力を感じさせる名前です。

現在は、葉が万年青(おもと)に似ていることから、ハマオモトとも呼ばれています。でも「ゆふ」という言葉の響きのほうが美しく、万葉の昔を偲ばせてくれますね。

右はインドハマユウ。ハマユウの仲間で園芸種です。鉄砲ユリにも似た美しい花を、やはり初夏から夏にかけて咲かせます。

 み熊野の 浦の浜木綿百重なす 心は思へど直に逢はぬかも    柿本人麻呂  巻4-496 

  ( 幾重にも幾重にも、貴女を思っています。逢いたい、逢いたいと人麻呂が歌い上げます。すばらしい恋歌ですね。群生するとさぞかし恋心の激しさにも似た輝きを見せることでしょう)

  (この浜木綿を白波と取るか浜木綿が咲き乱れると感じるか。やはりハマユウの花でしょうか。
   下の歌、笠金村の吉野讃歌の「白」の持つ清浄さと比較してみるのもおもしろいでしょう。)  

      山高み 白木綿花に落ちたぎつ 瀧の河内は見れど飽かぬかも      笠金村 巻6-909

         (激しく流れる清冽な吉野川が時に逆巻き波頭が白く輝く様子を、
           「白木綿花に落ちたぎつ」と表現しています。)
  
     さびしとも人こそ言わめわが恋ふはいまだ見ねども秋しぐれすぎゆくなべに清らなる浜木綿の花
                               (「苔」 芥川龍之介)