万葉の植物 はじ   を詠んだ歌
                           2011.2.22 更新

 
  

   
はじ (万葉表記   波自)       ヤマハゼ (ウルシ科)

はじは山に生育するハゼノキで、ヤマハゼの古名。山地に自生する落葉木。高さは5m前後。時にそれよりも大きく生長することもある。葉は美しい羽状複葉。初夏黄緑色の円錐花序をつける。なかなか爽やかな色です。雌雄異株。昔はこの実から蝋を取り、蝋燭を作っていたそうです。
ハゼノキ、ヤマハゼ、ウルシ。この三種の弁別には苦労します。
果実は黄褐色でつやがある。果皮は割れない。葉の両面に毛が散生。 --- これが見分けのコツのようです。なかなか。

 
集中1首のみ  ですから全文を掲載します。

  久方の 天の門開き 高千穂の 岳に天降(あも)りし皇祖(すめろき)の 神の御代より はじ弓を 手(た)握り持たし 真鹿子矢(まかごや)を 手挟(たばさ)み添へて 大久米の ますらたけをを 先に立て 靫(ゆき)取り負ほせ 山川を 岩根さくみて 踏み通り 国求(ま)ぎしつ ちはやぶる神を言向け まつろはぬ 人をも和し 掃き清め 仕へまつりて 蜻蛉島 大和の国の橿原の 畝傍の宮に 宮柱 太知り立てて 天の下 知らしめしける 天皇の 天の日継と 継ぎてくる 君の御代御代 隠さはぬ 明き心を すめらへに、極め尽して仕へくる 祖(おや)の官と 言立て 授けたまへる 子孫(うみのこ)の いや継ぎ継ぎに 見る人の 語り継ぎてて 聞く人の鏡にせむを 惜(あたら)しき 清きその名ぞ おぼろかに 心思ひて 空言も 祖の名絶つな大伴の 氏と名に負へる 大夫の伴                   大伴家持 巻20-4465 
 
天平勝宝8年(756年)6月17日、大伴家持の詠んだ「族(うから)を喩す歌」。
出雲守大伴古慈斐(おおとものこしび)が、淡海真人三船の讒言によって捕らえられた土岐、大伴一族よ自重するように、との思いで詠みました。

「そもそも、大伴一族は古く神の御代から皇室に仕えてきた名誉ある家である。天皇に対して忠節を誓い、大伴の名を汚すな。」

「はじ弓」 ・・・ ハジの木で作った弓。細長く材としては適当な太さの枝を四方に伸ばします。

はじは邪悪なものを祓う霊力を持った木と信じられていました。
天孫降臨の折り、大伴氏の祖先の神(天津久米命)が、神授した「天のはじ弓」を用いたことを『古事記』『日本書紀』が伝えています。神代は、大伴氏は皇祖に忠誠を誓い栄光ある一族であったと。
藤原氏の台頭に危機感を抱く大伴一族の氏上大伴家持の、切歯扼腕する気持ちがこの長歌に表現されています。