万葉の植物  ごどう  を詠んだ歌
                        2012.12.15 更新

 

     
             アオギリ                              キリ(ハナギリ)


   ごどう
 (万葉表記  梧桐  )   アオギリ (アオギリ科)  キリ (ゴマノハグサ科)

梧桐は現在の青桐。よく見かける桐(右写真)とは植物分類上はまったく違う植物。しかし互いに良く似ていることから総称として「桐」と呼ばれます。 桐(右写真)ともに落葉高木で大きい葉を付けます。
アオギリの幹は緑色。古代中国では「青」は緑から青までの広い色目をさす言葉でした。現在も「信号の青」にその名残が見られます。
雌雄異株。雌花に付く果実は成熟する前に裂け、さやは船の形をしていて、風にさやさや音を立てます。種は数個付き食用。戦時中はこれを炒ってコーヒーとして飲用しました。

なぜアオギリの幹が緑色なのか?
多くの樹木では幹にコルク層が発達していわゆる幹らしい色に変化しますが、このアオギリの場合、何十年もの間葉緑素を含んだままの色を保ちます。葉の大きさや新梢の美しさから、漢詩に詠まれています。

「一葉落ちて天下の秋を知る」 あるいは、
「偶成 」朱熹作 の
「少年老い易く學成り難し
 一寸の光陰輕んず可からず
 未だ覺めず池塘春草の夢
 階前の梧葉已に秋聲」  

この漢詩を習ったことを思い出します。今にしてこの詩が言わんとすることが良く理解できますが、いかんせん。時すでに遅し。

「桐は中国では鳳凰の済む木として尊重され、日本では天皇家はじめ多くの家紋として使われています。
キリ」は「切る」から。根元から切っても太い芽がすぐさま発芽し真っすぐで節間の美しい材が取れます。女の児が生まれたら桐を植える、というのは箪笥の材料として有用で、かつ生長が早いことを意味します。

日本の琴は桐で作られますが、古くはアオギリでも作られていたようです。下記の大伴旅人の歌に詠まれているのはこのアオギリ。


旅人、藤原房前に倭琴を送る2首 
--- 琴の内部には人の魂がこもると信じられていました。もともと琴は古くから神事に使われる祭器でした。神を呼び寄せる力を持つものです。
 
 (物語仕立てにして和琴の精の娘子に成り代わり歌を詠み、いまや都で政治の中枢にある藤原房前に和琴を贈りました。風流人旅人は、(猟官活動のためにか)倭琴を贈るにも趣向を凝らします。この時藤原房前は参議・正三位。対して旅人も、正三位・太宰帥です。本来同等の立場にあるものの、若さと、氏族の勢い --- 政治力には勝てません。)

  (桐が乙女に変身するというのは、当時の神仙思想、特に『遊仙窟』に影響されたと考えられます。)
 
題辞に「梧桐の日本琴一面」
  如何にあらむ日の時にかも声知らむ人の膝の上わが枕かむ  太宰帥大伴旅人  巻5-810

  僕詩詠に報へて曰はく、

 言問はぬ樹にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし 大伴旅人  巻5-811

    藤原房前からすぐさま返信がありました。さすが天下の政治家のすばやい動きです。
 言とはぬ木にもありとも我が背子が手馴れの御琴地に置かめやも      藤原房前 巻5-812