つた 

  つた   つる植物 Virginia creeper  ブドウ科ツタ属

 グリーン・ゲイブルスの外壁に茂っている蔦の描写が数回 あり、いずれも外壁にからみついて茂り、陽の光を浴びて輝く様子を、家の中の人物の行動や心理と重ねて描写しています。一番の印象は、蔦の存在にその人物が守られているということでしょうか。

目の悪いマリラを、陶然とするアンを、心の内をマリラに打ち明けるアンを、頭上から見守っているような蔦。さて、その蔦は?

  青々した蔦がからみついた東の窓をのぞくと  
                『赤毛のアン』 第1章 レイチェル・リンド夫人の驚き  

    (・・・was greened over by a tangle of vines.

  窓の外からりんごの木と蔦(vines)の葉越しにさしこむ白と緑の光線が、無我の境に浸っているこの小さい女の子の姿の上を、神々しく照らしていた。
                 『赤毛のアン』 第8章 アンの教育
 

 (The white and green light strained through apple trees and clustering vines outside fell over the rapt little figure with a half-unearthly radiance. )

 ・・・ 窓辺にむらがり茂っている蔦(vines)の葉ごしにもれさす日光が、・・・
                 『赤毛のアン』 第14章 アンの告白

(As Marilla lifted it out, the sunlight, falling through the vines that clustered thickly about the window, struck upon something caught in the shawl--something that glittered and sparkled in facets of violet light. )

 アンはちょっと顔を赤らめて笑い、本をふせると、うっとりと窓の外をながめた。春の日光にさそわれて、大きな、赤い、ふくらんだつぼみが、蔦から萌え出ていた。 
            『赤毛のアン』 第31章ふたつの流れの合うところ

Anne colored and laughed a little, as she dropped her book and looked dreamily out of the window, where big fat red buds were bursting out on the creeper in response to the lure of the spring sunshine.
 

  

本文に「入学試験まであと二月」という描写があることから、季節は早春りんごの花の頃。
「おおきな、赤い、ふくらんだつぼみ」とは?おそらく、5枚の葉が展開する直前のふくらみ。
これはやはり蔦(Virginia creeper )でしょう。どの章においても蔓植物の総称としてvinescreeperとの表現がなされています。
 

  家全体にからんでいる蔦は霜のため、赤銅色や葡萄酒のような赤色に紅葉していた。
  『アンの青春』 第21章 ミス・ラベンダー  アンとダイアナが山彦荘に行き着いた時に。

・・・finding easy foothold on the rough stonework and turned by autumn frosts to most beautiful bronze and wine-red tints.

とあります。
わざわざ「ブロンズ」「ワインレッド」のルビがあることから、島で代表的な蔦の「Virginia creeper」だと思われます。和名はアメリカヅタ。写真は那須の町なかで見つけたもの。生長が盛んで枝分かれし、巻きひげで周囲のものや壁にからみつき、緑化、日除けとして利用されています。
写真のようにつやつやとした照葉5枚の葉を持ち、春の芽出しから秋の輝くような紅葉まで楽しめる植物。
スイカズラが落葉せず冬を越すことから忍冬と呼ばれるのに反し、このアメリカヅタ、落葉し、冬はそのこんがらがった蔓の姿を見せてくれるのです。

古く中国では、緑を青と称しました。若い、新しい、生き生きしているなど表現にも遣われますね。
今も信号の緑色を青と呼ぶことにその名残りがあります。日本には同属の「ツタ」があり、こちらは葉の先が三つに分かれていて、若い時の葉は、かぶれるツタウルシに似ているので、ご注意を。
昔はこの(日本の)ツタやアマチャヅルの樹液を採取し、甘味料として利用していたという説もあります。
島ののVirginia creeperの樹液も甘いのでしょうか。試してみたいものです。

  → 芥川龍之介 『芋粥』    → 清少納言 『枕草子』