チューリップ 

  チューリップ   Tulip   (Tulipa)  ユリ科チューリップ属

 これほど知られている花は無いでしょう。原産地は地中海沿岸、および中東からアジアにかけての球根植物。
トルコから16世紀にオランダに渡ると、チューリップ栽培が土地に合っていたのか、品種の改良も進み、多種類の球根が作出されました。

どの世の中でもこういう事が起きます。
オランダのチューリップ投機です。愛好家の間で球根の取引が盛んになり、珍しい品種を求めて財産を傾けるまで投機に熱中した愛好家たちが現れました。日本の昭和の時代に、万年青の取引で破産してしまった人を知っています。人間の愚かさ、というべきか、一度その方向に進むと立ち止まって考えることをしなくなる人間。
いつまでも懲りない人間の本質の変わらなさというべきか。
  

 ヘイゼルは塔の部屋で心の中のことをアンに打ち明けていた。部屋からは港の上にかかる新月と、窓の下の真紅のチューリップの花に漂う晩春五月のたそがれが眺められた。
           『アンの幸福』 2年目 
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Hazel had been pouring out her soul to Anne in the tower room, from which they could see a young moon hanging over the harbor and the twilight of a late May evening filling the crimson cups of the tulips below the windows.)

 庭のチューリップ

作者モンゴメリは、このチューリップがあまり好きではなかったのかもしれません。
この『アンの幸福』で、やっとチューリップが作中に描写されます。それも、「真紅のチューリップの花に漂うたそがれ」と、なんだかそっけない様子で 。
たそがれの中、真紅のチューリップは次第にその色を失い、あたりの闇に溶け込んでいきます。白いチューリップだと、ぼんやり灯る蛍のように、いつまでもその存在感を失いません。

これは・・・モンゴメリ特有の暗喩かもしれません。若くて綺麗で、軽々しくて見栄っ張りで。頭の中は軽くて、刹那に生きているヘイゼル。この印象を花びらが一気に散り敷いてしまうチューリップの命の短さに重ねて。
しかし、ですね。それは思い上がりでしょう。
神経が太くて細かいことにこだわらず、明るく陽気に生きていく人。
物事を思いつめて考えない人。現状に満足できる人。
こういう人の方が、命を終えるとき、人生に対する満足度が高いのではないか、と年齢とともに感じるのです。