タンジー   

  タンジー(Tansy Tanacetum vulgare (キク科ヨモギギク属)

タンジーは、薬草としてユーラシア大陸から北米にもたらされた多年草。原産地のイギリスでは、その強い香りを虫が嫌うことから、床に撒いたり、防虫用にサシュを作ったりとさまざまに利用されてきました。
日本には明治のころ渡来し、北海道では変種として野生化しています。(エゾノヨモギギク、環境庁の絶滅危惧種に指定)
殺菌・防虫効果があり、乾燥葉はハーブとして虫除けなどに使われていました。
明るいレモンイエローの花の色と、細かい切れ込みを見せる緑の葉とのバランスが良く、観賞用としても用いられています。
全草に毒を持ち、現在は使われませんが、駆虫効果があるとされ、昔は虫下しやお茶に用いられました。


(ドクター・バーンリ) 七月いっぱい彼は、よもぎが原にすむテディ・ケントの命を救おうと一生懸命だった。
よもぎが原(The Tansy Patch)は「失望の家」の東がわにあって、ブレア・ウォーターと砂丘に挟まれていた。・・・・その丘には香ばしいよもぎ(tansy)がびっしりとはえていた。

・・・・エミリーとイルゼはよもぎが原をとても楽しい場所だと思ったので、よろこんで遊びにでかけた。夏休みの間、二人がよもぎが原にでかけない日は、ほとんど一日もなかった。・・・・白い蛾がよもぎの上を飛びかい、遠い緑の山々の影に夕日が沈んで、池の端の蛍が淡い光をともしていた。  
                                                 
                                         『可愛いエミリー』 第12章 よもぎが原

 (
The Tansy Patch was east of the Disappointed House, between the Blair Water and the sand-dunes. Most people considered it a bare, lonely, neglected place, but Emily thought it was fascinating. The little clap-boarded house topped a small hill, over which tansy grew in a hard, flaunting, aromatic luxuriance, rising steeply and abruptly from a main road. A straggling rail fence, almost smothered in wild rosebushes, bounded the domain, and a sagging, ill-used little gate gave ingress from the road. .)

(But they had found the Tansy Patch a charming place and were glad to go again. For the rest of the vacation there was hardly a day when they did not go up to it--preferably in the long, smoky, delicious August evenings when the white moths sailed over the tansy plantation and the golden twilight faded into dusk and purple over the green slopes beyond and fireflies lighted their goblin torches by the pond. )
 

 原産地のイギリス。湖 水地方のホテルの前庭
 
  エゾノヨモギギク

キク科の植物はおおむね日当たりの良い土地を好みます。
上の「よもぎが原」の描写から、海に近い、乾燥した砂丘から裾にかけてタンジーが茂っている様子が目に浮かんできませんか。よもぎが茂り手入れされていない場所、すなわち男手が無い。牧草として利用しないので、ケント家は農家ではない。海からの風が強くケント家では花壇に花を咲かせることができない。
こんなことが読み取れるのです。
三人はよほどよもぎが原が気に入ったようです。
タンジーは高さ1メートルくらいまで生長し、その茂みのなかを掻き分けて進むと、香りが立ち上り、横になって、丸い空を見上げると、よもぎにすっぽり囲まれて、まるで小鳥の巣の中の雛のように思える。
やがて夕日が沈むと蛍が灯をともし、夕闇の湿気のある空気のなか、タンジーはますます香りが高くなる・・・・・理想的な子供時代の遊びの描写。