タチアオイ Hollyhock (Althaea
rosea アオイ科タチアオイ属)
Hollyhock(タチアオイ)は、アオイ科の多年草。
Hollyhockという名前からholy----「聖なる花」に通じ、「十字軍によってシリアからヨーロッパにもたらされた」という説もあります。
イラク北部で、六万年前のネアンデルタール人が死者に手向けた花が出土した-----それはタチアオイ。
日本には、古く薬用として渡来し、平安時代には唐葵(カラアオイ)と呼ばれ、立葵(タチアオイ)と呼び名が変化したのは江戸時代。今や田舎の夏の景色には欠かせない花。
花期は初夏。条件の良い場所では、背丈は2から3メートルに達することもあります。花茎は直立し、下から上に向かって咲き揃っていきます。梅雨の晴れ間の青空に映える様子は美しく、昔ふうの庭にふさわしい花。
花言葉は、平安、高貴、大きなこころざしなど。 |
Mrs.
Rachel deposited her substantial person upon the stone bench by the
door, behind which grew a row of tall pink and yellow hollyhocks,
with a long breath of mingled weariness and relief.
『赤毛のアン』 第38章
The Bend in the road
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アンが、マリラとグリーンゲイブルスを守るため、大学進学を諦めたと聞きつけたリンド夫人がやってきたシーンが原文にありますが、村岡訳には見当たりません。
さらにリンド夫人が、「二百ポンドもある身体を運ぶのに、ほとほと疲れた。アンは勉強を十分してきたので、これ以上必要ない・・・」などと御託を並べる場面が続くのですが、ここも訳されていません。
あたりにミントの香りが漂い、タチアオイが並んで咲いているグリーンゲイブルスの夕暮れ。
夕闇に心を寄り添わせるマリラとアン。
直感で自分の進む方向を探し当て、目標に向かって努力できる力を持つアンです。
黙して語らない人ほど、充実した人生を送る----啓示のように漂うミントの香りと、夕焼けに染まったタチアオイの花に風が告げる。印象的な場面です。 |
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花の向きは一定ではないようです。 |
リラはいまでもまだ舌よりも目で話すほうが上手だった。まったくの片言なのである。しかし、それもなおるに相違なかった。どんどん成長していくからである。去年、お父さんはばらの茂みでリラの背丈をはかった。今年は草夾竹桃であった。じきに蜀葵ではかるようになり、あたしは学校へ行くのだ。
『炉辺荘のアン』 第36章 リラとお菓子
(But she would grow out of that . . . she was growing fast.
Last year Daddy had measured her by a rosebush; this year it was the
phlox; soon it would be the hollyhocks and she would be going to
school. ) |
ばらも、草夾竹桃も、立葵も、木本と草本の違いこそあれ、夏の間日々生長し続ける植物です。
日本ならさしずめ「柱のきず」で子どもの背丈をはかるところですが、生長はかばかしい植物で、やはり成長し続ける「こども=背丈」で測ったところに、このシーンの妙味があります。
感情表現が苦手で、いつまでも片言で話すリラよ、大きく素直に育て!との両親の願いを込めて。それにしても、おしゃべりの好きなアンの子供なのに、話すのが得意でない、という設定はいずれ『アンの娘リラ』で生きてくることでしょう。
古代のイラクで、平安の日本で、十九世紀のアンの島で。このタチアオイが咲き揃っていたのかと想像すると、そのしなやかで風に揺れる花びらがひときわいとおしくなるのです。
あおい・葵は、葉が太陽に向かって盛んに生長することから。
なお、京都の葵祭の葵は、フタバアオイ。 
葵の御紋 フタバアオイを3枚重ねてあります。
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ゆうぐれに直ぐなるふたり並びゐてうす桃色にたちあおい咲く (Ka) |