ふさすぐり

 ふさすぐり   スグリ   currant  ユキノシタ科スグリ属

スグリは、スグリ属を総称する名前で北半球に百五十種ほど自生し、代表的なものに、フサスグリ(Redcurrant) とスグリ(Gooseberry)があります。
フサスグリで一番目にするのは、赤い実のなる「アカフサスグリ」(Red currant) 。
高さは2メートルに達するかどうか。
落葉低木で枝分かれし、花の色は緑がかったクリーム色。初夏に赤く透明感のある房になった実をどっさりつけます。和名のフサスグリはここから。
ほかにも黒い実のBlack currant, 白い実のWhite currantがあるようですが、いまだに目にしたことがありません。生食するほか、ジャムやゼリー、ジュースにする、干してケーキに入れる、という使い道があり、その赤い色はさながら宝石かワインか。

いよいよ問題のいちご水事件が起こります。

 「これはすごくおいしいいちご水(raspberry cordial)ね、アン。私、いちご水ってこんなにおいしいものだとは知らなかったわ」   
              『赤毛のアン』 第16章 
 ティー・パーティの悲劇

  ("That's awfully nice raspberry cordial, Anne," she said. "I didn't know raspberry cordial was so nice." )

棚の瓶びんを一目見るとマリラはそれが手製の三年たった葡萄酒(three-year-old homemade currant wine)であることを知った。    
              『赤毛のアン』 第16章 
ティー・パーティの悲劇

  (
There on the shelf was a bottle which she at once recognized as one containing some of her three-year-old homemade currant wine for which she was celebrated in Avonlea, although certain of the stricter sort, Mrs. Barry among them, disapproved strongly of it. )
 


 

写真の赤フサスグリは、シェークスピアの生家の庭で撮影したもの。(2012年6月)棘のある緑色のスグリ(Gooseberry・グリーンカランツとも)は、『ピーター・ラビット』で知られるベアトリクス・ポター晩年の家、ヒルトップの前庭で撮影。(2012年6月)。
いずれもこっそり口にしてみましたが、まだ熟しておらず、酸味が強かった思い出があります。
 

はじめアンは「raspberry cordial」をダイアナに飲ませたのだと言い、ついでマリラは、「ダイアナはhomemade currant wineを飲んでしまった・・・」と絶句します。この時点で読者には苺の色をしたRed currantを使ったワインだと理解できますね。
Cordial
は砂糖を加えて煮詰めた果汁を漉したもの、アルコールを含んだものも言い、時代や地域によってその名前はさまざま。ワインは発酵させた果実酒。レッドカランツの実には、自然の発酵菌が付いていたのでしょうか。 それとも発酵菌を足したのでしょうか。
アンはここで間違いをしてしまったのです。
アンが風邪を引いていて匂いが分からなかったのと、マリラが置き場所を間違えたことが問題なのですが。
「ここに置いたと聞いている」のに、「これがそうだろう」と勝手に考え飲ませてしまうのが、アンのアンたるところ。しかし、さまざまなことを類推しがちな女の子の行動としたら、これはごく妥当でしょう。
これがもし、男の子だったとしたら、「言われた場所に無い」と言い張ることでしょうね。
この後、バリー夫人にいきさつを説明に出かけたマリラ。話し合いは決裂します。アンの行動そのものよりも、「マリラがキリスト教徒なのに、自家用のお酒を造っている」ことに、糾弾の矛先が向かうのでした。女性同士ではこういう問題点のすり替えは良く起きることです。私にも心当たりがありますから。

グリン・ゲイブルスに招待された小さなエリザベスが、

  「すぐりってきれいなものね、ドーラ姉ちゃん? 宝石を食べているようじゃないの?」 
               『アンの幸福』 #13  

  ("Red currants are such beautiful things, aren't they, Dora? It's just like eating jewels, isn't it?" . . . )

 と可愛らしい言葉を口にするのも、このレッドカランツならでは。
昨年の秋、ナツハゼの赤黒い実をお酒に漬けてみました。
三月待って試しに飲んでみると、それはまるで香りの高い赤ワイン。
マリラが作った「three-year-old homemade currant wine」とはこんな味なのだわ、と感激しました。
あと二年半、3年待つとこのナツハゼワイン?はどんな味に変貌するのか、楽しみがまた増えました。