じゃがいも 

  じゃがいも 馬鈴薯   potato( Solanum tuberosum L. ) ナス科ナス属

    近くのジャガイモ畑

 
アンがマシューと馬車でグリーン・ゲイブルスへ向かいます。)
だけど、この赤い道とてもおもしろいわ。・・・赤い道路をわきに見てどんどん通りすぎていくので、どうしてあんなに赤いのって、スペンサーさんの小母さんに聞いたのよ。・・・ねえ、どうして道が赤くなるの?」  
             『赤毛のアン』 第2章 マシュゥ・クスバートの驚き

(But those red roads are so funny. When we got into the train at Charlottetown and the red roads began to flash past I asked Mrs. Spencer what made them red and she said she didn't know and for pity's sake not to ask her any more questions. )

 「これまであの子みたいなのは見たこともなければ聞いたことのないね」とマリラは退却して地下室にじゃがいもを取りにおりて行った。     
             『赤毛のアン』 第4章 「緑の切妻屋根」の朝

("I never in all my life say or heard anything to equal her," muttered Marilla, beating a retreat down to the cellar after potatoes.)

・・・・クスバートさんはたしか、今日の午後、リリー・サンド号においもを積みこんでおいでになるんじゃありませんの?」とたずねたダイアナのほうは、その朝・・・
            『赤毛のアン』 第16章  ティー・パーティの悲劇

 ("She is very well, thank you. I suppose Mr. Cuthbert is hauling potatoes to the lily sands this afternoon, is he?" said Diana, who had ridden down to Mr. Harmon Andrews's that morning in Matthew's cart. )

アンが不思議に思った「赤い道」は、島の土壌が酸化鉄を含んでいるから。 
酸化鉄とは鉄の酸化物、つまり錆。この酸化鉄、顔料として利用されることもあり、(弁柄・ベンガラ、)ラスコーやアルタミラの洞窟絵はこの酸化鉄や木炭、獣脂・血・樹液などを使って混ぜ、顔料を作って描かれています。
赤い道に緑の葉を茂らせるジャガイモ。補色の取り合わせで鮮やかです。
デージーのページに書きましたが、やや酸性に傾いた島の土壌にはジャガイモ栽培が適し、こんなに小さいプリンス・エドワード島なのに、カナダ全体のジャガイモ生産量の三割を占めると言われています。国内消費や輸出するために港から送り出したり、自家用に保存したり、とその利用方法はさまざま。「地下室」に取に行ったジャガイモはさしずめ低温保存しているのでしょう、室(むろ)保存と同じです。
                   
発芽した芽の部分にソラニンという植物毒を含むので、マリラは包丁でこそげ取ることをアンに教え込んだでしょうか。島を旅すると、料理の付け合せに「ごろり」と大きなジャガイモが丸ごと。ポテトチップスのチョコレートがけや、ジャガイモのウォッカなどという名産もあるようですね。

 原産地は南米アンデス山地で標高の高いところ。水分を多く含み腐りやすいことから、いまでも南米ではチューニョ(Chunyo)と呼ばれる保存ジャガイモを作っています。
夜間、外気で凍結させ、日中解けると足で踏みつけ水分を蒸発させる、さらに干す。この過程でソラニンも除去できる。これを繰り返すことで乾燥したチューニョのでき上がり。アンデスの山中で、この乾燥ジャガイモと海の産物の塩や海藻とを物々交換している場面を見ましたが、大事な食料であることは今も昔も変わりません。

日本各地でも、ジャガイモを凍結乾燥や水晒しなどの加工をした伝統的な保存食品があります。島の気候は十分この冷凍加工に適しているはずですが、あまり聞きません。おそらく深く地下室を掘り下げ、内部に保存する方法が好まれたのでしょう。

 インカ文明の終盤、ヨーロッパにもたらされたこのジャガイモは、寒冷な気候に強く一年に何度もの栽培が可能で、鳥の害を受けることが少なく、痩せた土地でも栽培できることから重要な食料となりました。ただし、ナス科の植物なので連作を嫌います。
アイルランドでジャガイモの疫病が発生しジャガイモ飢饉に陥ったのち、新天地を求め、移民としてアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなどへ渡った移民の後裔が新国家建設に寄与した例は枚挙にいとまありません。過去、このジャガイモが飢餓から救った人の数を思うと、島の風に揺れるジャガイモの白や薄紫の花が、まるで命を守る砦に立つ旗のように思えるのです。

       ○ 高き陽は島の入り江を越えゆくと直ぐなる風よばれいしょを吹く (Ka)