パンジー

  パンジー  Pansy  (Viola wittrockiana スミレ科スミレ属)  

パンジーはヨーロッパやアジア西部原産のViola tricolorから作出された園芸種。
ビオラ(Viola)とは、紫色の意味で、スミレ科の植物全体を言い、園芸界では、花の大きいものをパンジー、小さいものをビオラと呼び分けています。
しかし学術的には同じもの。客観的にその区分けは難しく、現在はこの呼称も、多彩な品種があることから混乱しているようです。日本には江戸時代に渡来。和名はさんしきすみれ (三色 菫)。パンジーはフランス語のパンセ(考える)から採られました。つぼみが膨らみ、ややうつむき加減にさがり、花を開く準備をしている姿が、まるで思索にふけっているように見えることから。
もっとも、満開のパンジーの花は、その時の心持によっては、モンキー・フェイスに見えることもありますね。

訳文の「すみれ」と「パンジー」の違いは?パンジーは園芸種で一年草。 すみれは野生種で多年草と考えると分かりやすいでしょう。英語では、パンジーは「ガーデン・パンジー(Garden Pansy)」と、ビオラは「タフテッド・パンジー(Tufted Pansy)」と呼び分けています。

 ・・・エラ・メイ・マクファーソンは草花の目録の表紙から切りぬいた大きな三色すみれをくれた。それはアヴォンリーの学校で大いに珍重されている机の飾りの一種だった。・・・    
                 『赤毛のアン』第17章 新しい刺激

(Ella May MacPherson gave her an enormous yellow pansy cut from the covers of a floral catalogue--a species of desk decoration much prized in Avonlea school.)

 「またあのおせっかいの雌鶏どもが、私の三色すみれの花壇(pansy bed))を荒らしてるんじゃないかな」と言いながら、マリラはあわてて立ち上がった。雌鶏どもは三色すみれの花壇(pansy bed))には影も見せていなかったし、マリラは花壇なんか見向きもしなかった。そのかわりにマリラは物置きの入口に腰かけて、いやになるまで笑いころげた。 
                 『アンの青春』 第27章 石の家の午後

("I. . .I suppose them pesky hens are in my pansy bed again," said Marilla, rising and going out hurriedly. The slandered hens were nowhere near the pansy bed and Marilla did not even glance at it. Instead, she sat down on the cellar hatch and laughed until she was ashamed of herself. )

 ・・・・愛するディーンがふたたび帰ってきたことは実にうれしかった。わたしたちはジミーさんのパンジー(pansy)を摘んで大きな花束をつくったり、灰色の雨雲が、東のほうの空に紫のかたまりになってどんどん集まっていき、西の空を星いっぱいにちりばめているのを眺めたりした。   
           『エミリーはのぼる』第19章 空中の声

"It was such a beautiful thing that just to be distantly compared to it made me feel very well pleased with myself, and it was lovely to have dear old Dean back again. So we had a delightful evening, and picked a big bunch of Cousin Jimmy's pansies and watched the grey rain-clouds draw together in great purple masses in the east, leaving the western sky all clear and star-powdered.

「きみといっしょにいるとね、星はいちだんと星らくしひかり、パンジーはぐっと紫色にみえるんだよ。どういうわけだろう」
              『エミリーは登る』 第19章 空中の声

("'There is something in your company,' said Dean, 'that makes stars seem starrier and pansies purpler.')

(5月25日の日記)このパンジーは冬越ししたのかもしれません。あるいは室(むろ)で管理したのか。 

野生のものは白、黄、紫の3色でしたが、品種改良の結果、いまに見られるさまざまな色や組み合わせが生みだされました。その鮮やかで多彩な色や花姿は、やはり春花壇の王さま、いや王女様ですね 。
ところが、『英文学のために動物植物事典』 ピーター・ミルワード 中山理訳 大修館書店によると、三色すみれの色は 「赤 黄 白」の三色だと。野生の色・紫色ははいっていないようです。
 
 

野生のすみれは多年草、それに対して園芸種のパンジーは一年草。
基本的には種を蒔いて殖やしますが、寒い土地では夏を越し、宿根することもあり、枝を挿し芽すると、温度管理さえうまくいけば活着することもあります。
種蒔きは秋、涼しくなってから。専門家は温度管理された部屋や、夏涼しい高地で播種育成するので、秋早くから苗が出回るのです。ただし、あまり早く苗として出荷されるパンジーは、東京以西の暖地ならともかく、関東以北の冬の寒さの厳しい土地にはおすすめできません。
園芸雑誌などには、冬の寒さが来る前に定植するように書かれていますが、植えつけ後、寒さには耐えますが、乾燥に耐えられず、または霜柱に押し上げられて、その後の生育が極端に悪くなることが多いようです。
やや酸性の土地を好むことから、嬉しいことに日本の国土に合った花です。