マートル

 マートル  ギンバイカ  Myrtle   
                                   Myrtus communis
 フトモモ科ギンバイカ属                                                                    和名は、「銀梅花」「銀盃花」「銀香木」   

地中海沿岸原産の常緑小低木。耐暑性、耐寒性いずれも弱く、なかなか扱いに難しい植物です。
ここ那須では鉢に植え、冬は室内で冬越ししないと凍死するかもしれません。
 咲き初めの花が梅に似ていることから「梅花」。花色は写真のように純白(銀)なので「銀梅花」。
花は爽やかな柑橘系の香りがして、庭にふんわりと漂っています。ハーブとしての一面を持ち、葉は肉料理の香り付けに、お酒に浸け「祝い酒」に、花は生のままサラダに、枝や葉は肉料理の風味付けに、乾燥させてポプリにといろいろな使い道があるようです。
さらに消炎、鎮静、抗菌作用があるとのこと。 花を一言で言えば、「爽やかさ」。ハーブと言えば、「香草」をイメージしますが、木本でハーブの役目をするのに、他にはゲッケイジュ(ローレル)やクチナシなどでしょうか。

 古代エジプトでは繁栄の象徴とされ、ヨーロッパでは、結婚式の飾りや花嫁さんのブーケに利用されます。別名「祝いの木」と呼ばれる由縁でしょう。記憶に新しいところでは、20114月、 イギリスの皇太子・ウイリアム王子と結婚したキャサリン妃が、手に持っていたのは、白一色のエレガントなブライダルブーケ。

Lily-of-the-valley (スズラン)、Sweet William (ナデシコ)、Hyacinth (ヒヤシンス)、Ivy(アイビー)、そしてMyrtle(マートル)。

アンが、そして作者のモンゴメリも「昔風の庭に咲いているべき」と考えた花がブーケに揃っていて、英語圏の女性の好みがうかがわれます。

 今回直接植物に関する表現ではないものの、植物名・マートルを取り上げたのは、その名前を付けられた女性が出現したからでした。
いままで聖書にちなんだ名前が多く見られましたが、植物の名前=人の名前というのは珍しいですね。 日本での「百合」、「桜」、「桃」などと一緒でしょう。
もっともモンゴメリは、自然のなかの木や花が好きですから、当然ですが。                                                

 
あれからってものは、ダイアナの想像力はだめになってしまったのよ。リンドの小母さんが言ってなすったけれど、マートル・ベルはばかになってしまったんですって(Myrtle Bell is a blighted being.)。どうしてマートルがばかになんかなったのって、ルビー・ギリスにきいたら、たぶん愛人(her young man)に裏切られたんだろうって言うの。 
             赤毛のアン』第30章  クィーン学院の受験

(Mrs. Lynde says Myrtle Bell is a blighted being. I asked Ruby Gillis why Myrtle was blighted, and Ruby said she guessed it was because her young man had gone back on her. Ruby Gillis thinks of nothing but young men, )
 

あら。「ばか」・・・・「愛人」。平成の世にある私は、やや違和感を覚えます。

愛人と恋人。この違いは。昭和の初めのころから戦後まで、愛人は愛のある清らかな関係で、恋人はそれよりも一歩進んだ関係を言いました。ですから、この「ルビー・ギリスの愛人」の表現は現在とは違った意味合いを持ちます。
blight・ しおれている」を「Myrtle・ マートル」と対応させてあるのですから、ここは「しおれている」、「落ち込んでいる」、「心が萎えている」くらいで押さえてくださいませんか。「しょげ返る」、「ふさぎ込む」、古語の「心もしのに」もなかなかいい表現だと思うのですが。友人を「ばか」とはあまり呼ばないのでは。でも他の意味があるのでしょうね。
 

・・・戦中戦後の言語表現ではこれが普通だったのでしょうか。訳文に時の流れを感じます。
 

  (ヴァランシーの思い描く青い城には)噴水がきらきら光りながら吹きあがり、ナイチンゲールがギンバイカの間で鳴いている。     『青い城』 第1章 モンゴメリ作 谷口由美子訳

 (where shimmering fountains fell and nightingales sang among the myrtles;)

『青い城』は、作者が52歳になった1926年に書かれています。舞台は 、カナダ本土のオンタリオ州トロントの北の湖水地方のマスコウカ 地方バラ(Bala)周辺。森と湖の国カナダでもとりわけ自然の美しい地方です。
ナイチンゲールは、スズメ目ヒタキ科の鳥、日本名を小夜啼鳥、夜啼ウグイス。その啼き声の美しさで知られます。ギンバイカは寒さに弱いので、カナダ、特にトロントの北では自然のなかで育ちません。あるいは鉢植えにしてあるか、またはハーブとして利用したのか。この取り合わせの妙よ。
本物のギンバイカに接すると、主人公の、ナイチンゲールを、枝に止らせ鳴く声を聞きたい、という気持ちが理解できます。そのくらい香り高いのがこのギンバイカ・銀盃花)
   
         庭に咲いたギンバイカ・銀梅花 爽やかな香りが漂います。  このあと鉢上げ。