イピカック     

  イピカック   和名を吐根(とこん) アカネ科の常緑低木  
                         学名:Carapichea ipecacuanha

原産地はブラジル。 東南アジアでも栽培されています。
去痰、催吐、緩下作用があり、根を乾燥させたものは生薬の「吐根」といい、日本薬局方にも記載されている漢方薬。
ブラジルのトゥピ族の言葉で「吐き気を催す草」という意味の「ipecacuanha」が語源。
トコンの根には催吐作用のあるケファエリン、エメチンなどのアルカロイドが含まれていて、アメーバ赤痢の抗原虫薬でもあるようです。
現在日本でもこのイピカックが販売されていて、主にタバコ、医薬品等を誤飲した場合の催吐剤として利用されています。
ただし、特に小児に対して使用するに当たっては、特別の訓練を経た医師が行うこと、小児科あるいは内科のある救急指定病院など、誤飲治療の経験十分な病院等 での使用可と限定されているようです。
 

  「泣いちゃだめよ」アンは元気な声で言った。「喉頭炎ならどうすればいいか、あたしよく知っててよ。あんた、ハモンドさんとこでふたごが三組もあったってこと忘れたのね。ふたごを三組も世話すれば、しぜん、いろいろな経験をする物よ。みんな、順々に喉頭炎にかかったんですもの。ちょっと待っててね。吐根(イピカック)のびんを持ってくるから。あんたの家にはないでしょうからね。さあ、行きましょう」 
                     『赤毛のアン』 第18章 アンの看護婦

("Don't cry, Di," said Anne cheerily. "I know exactly what to do for croup. You forget that Mrs. Hammond had twins three times. When you look after three pairs of twins you naturally get a lot of experience. They all had croup regularly. Just wait till I get the ipecac bottle--you mayn't have any at your house. Come on now." )
 

イピカックシロップ   今でも販売されています。
 

croup(クループ・喉頭炎・こうとうえん)とはどのような病気 なのでしょう。

原因の大半はウィルス感染によるもので、時に細菌感染によっても発病します。
激しい咳、急性の喉頭狭窄による吸気性喘鳴や、呼吸困難などをが、特に夜間に病状が悪化し、幼児だと死亡する危険もあります。
高熱を発することもあり、現在では喉頭の炎症を抑えるステロイドホルモン剤を吸引させるのが特効薬。
アンの時代には、蒸気を立てる、安静にするといった対処療法しか無かったのでしょう。
そこで、対処法を経験的に知っていたアンの出番でした。
気管を痰で詰まらせないように、
催吐作用のある「イピカック」が役に立ったのです。
インフルエンザ・ウィルスが小さいミニーメイに取り付いて、重篤な病状を引き起こしたのなら、まったく予断を許しません。

しかし、ここで疑問が残ります。
バリー家ではなぜ、ダイアナと小さいミニーメイがいるのに、イピカックシロップを常備していなかったのか。
反対に、幼児のいないクスバート家に治療薬があったわけは?
アンはなぜ、バリー家に、イピカックシロップが無いことを知っていたのか。

家を預かる主婦の性格の違い・・・なのかもしれません。
マリラの、気付けのために作っていたカランツワインさえ拒否したバリー夫人に対し、何事も準備怠りないマリラの、万一を考えての行動。そして好奇心旺盛でバリー家の薬棚させ知悉していたアンの取り合わせが、いざという時物を言いました。