ヒース    

  ヒース ヘザー Heather  (Calluna vulgaris ツツジ科カルーナ属 )  

ヒースは、ヨーロッパからロシアのウラル山脈、北アフリカ原産のツツジ科の植物。
ツツジ科カルーナ属の常緑低木で、学名は Calluna vulgaris。英名は Heather。 葉にはやや厚みがあり、葉の色は多様で、緑色から黄色、はては赤まであり、冬に変色するものまであります。夏から初秋にかけて花を咲かせ、花色は白から赤、赤紫色と多様。
この英名 Heatherで知られるカルーナ属のヒースは600種以上あり、770種以上あるとも言われるツツジ科エリカ属のヒースに似ていることから、双方の名称が混乱し、現在はカルーナ属、エリカ属及びイワヒゲ属の総称として「ヒース」が用いられることが多いようです。
日本へは昭和初期に渡来、和名はギョリュウモドキ。
ヒースが堆積し炭化したものがピート(泥炭)で、ごく若い段階の石炭も言えます。
高地の人々に取っては大切な燃料でした。何より、ウィスキーやビールの香り付けに利用されスコッチウィスキーとしての名を知らしめたのもこのピートのおかげ。
ヒースは日々の暮らしのなかで、箒の材料、敷き藁、染料として利用され、薬用としては、収斂作用、鎮静作用、殺菌効果などがあり、蜜源としても役に立つ植物です。

荒涼とした大地に広がって咲くヒースの小さい花は、想い出のシンボルとされ、英米小説によく登場します。
(なお、厳密には「ヒース」は、ヒースが群生している原野、個々の植物や花を「ヘザー」と言うようです。)
 

 「ああ、それで思いだしたんだけど」とジョシーが言った。「クィーンにも結局、エイヴリー奨学金が出ることになったんですって。・・・・・・ エイヴリー奨学金! アンは胸が高鳴り、野心の地平線がたちまちのうちにひろがるのを覚えた。・・・・・自分がエイヴリー奨学金を獲得して、レドモンド大学の芸術科にはいり ・・・                                   『赤毛のアン』第34章 

 (For the Avery scholarship was in English, and Anne felt that here her foot was on native heath. 

(エイヴリー奨学金は英文学を優秀な成績を修めた学生のためのもの。
英語学と英文学を得意とするアンは、生まれ故郷のヒースの丘に立っているような気持になった。

「心の底にひそんでいた、郷愁に裏付けられた自我が目覚め、自分を恃みとし、目標を立て、奨学金獲得に向けて奮い立った。」この決心を、「生まれ故郷のヒースの丘、on native heath.」に立つと表現しています。
 

 「ヒース(heather)ですって?」と、アンは叫んだ。「ヒース(heather)はアメリカには生えないんじゃないの?」
「全アメリカ大陸のなかで、たった二ヵ所だけあるのよ」と、フィルが説明した。・・・・あの有名なスコットランド高原の「黒色部隊」が・・・・野営していて、春の季節に兵士たちがベッドの藁をふるったときに、ヒースの種がいく粒かこぼれて根をおろしたのよ」「まあ、なんて素敵なんでしょう!」アンは有頂天になった。
                                                             『アンの愛情』  第6

("Speaking of romance," said Priscilla, "we've been looking for heather -- but, of course, we couldn't find any. It's too late in the season, I suppose.""Heather!" exclaimed Anne. "Heather doesn't grow in America, does it?"
"There are just two patches of it in the whole continent," said Phil, "one right here in the park, and one somewhere else in Nova Scotia, I forget where. The famous Highland Regiment, the Black Watch, camped here one year, and, when the men shook out the straw of their beds in the spring, some seeds of heather took root." "Oh, how delightful!" said enchanted Anne.)

敷き藁として使われていたことが分かります。植物に興味がある兵士や、ヒースの便利な使い道を知る兵士が故郷イギリスからはるばる種を運んできて、新天地に蒔いたとも考えられますね。
現在は、カナダ東部やアメリカ合衆国の東部に分布しています。

なるほど。根を降ろし活着することを「take root」というのか・・・。と新しい発見。

  イギリス、ヨークシャー
  小説『嵐が丘』の舞台となった荒野に広がるヒース


  『嵐が丘』の上を雲が流れる

 スイス、グリンデルワルト 
                                                                                         南 の山の中腹に咲くヒース