はまなす 

 はまなすの生垣  バラ科バラ属の落葉低木

原文にあるsweet-briar はバラ科バラ属の落葉低木。学名は Rosa rubiginosa 英名は Sweet briar

ユーラシア大陸から北ヨーロッパ、アジア地方に分布する野ばらの一種。葉から良い香りが漂い、秋には果実が赤く色付きます。赤い実は花とはまた違った美しさ。
果実は食用で、果実酒やジャムに利用されます。ニュージーランドやオーストラリアでも見かけましたが、これはヨーロッパ人が持ち込んだもの。かの地では外来種です。リンゴの香りの
sweet-briar を栽培したことがありました。植えつけて二、三年は、あたり一面にリンゴの香りが漂い、うっとり時を忘れるほどの芳香を楽しみました。・・・が、やがて五年、六年と経つうちに、香りが乏しくなり、普通のバラに成り下がったのが残念と言えば残念。『銀の森のパット』に出てくる、ヒラリーの母親にあげる花束に入れた「香りのするばらの葉」とは、おそらくこの野ばらのことでしょう。
 

 毎日コック・ロビンは裏庭のはまなすの生垣(the sweet-briar hedge)の隅にある盥(たらい)で水浴びしたが、盥に水がはいっていないとたいした声で騒ぎたてた。
                                              『炉辺荘のアン』 第25章 駒鳥と犬

(He took his daily bath in a basin in the back yard, in the corner of the sweet-briar hedge, and would raise the most unholy fuss if he found no water in it.)                                                                                
 

  
    ハマナス フィンランド・ロバニミエで
     緯度が高いので、花が大きめ
 

  ローズ・ヒップ  
       スイス・グリンデルワルトにて
  熟した果実は甘酸っぱい    

炉辺荘ではこのスィート・ブライヤーを生垣に用いたのですね。
煉瓦ほど他人を拒否せず、敷地が広く日当たりが良ければ素直に生長し、さりげなく境界を示すのにこの野ばらほどふさわしいものはありません。
おまけに駒鳥までやってきて、生き生きした姿を見せてくれるなんて・・・おっと、我が家にはシジュウカラが毎日来るのでした。
 
           
  壊れた土鍋で水浴びをするシジュウカラ

もう一つのばら。村岡訳のはまなすです。
作者が意図した野ばらも、村岡訳のはまなすも、どちらも野生のばら。めっぽう寒さに強く、生育は旺盛。
はまなすの和名は浜茄子、浜梨。学名は
Rosa rugosa。花も葉も上のスィート・ブライヤーに比べるとやや大振りで、がっしりした感じがします。
根は染料に、花はお茶に、果実はローズヒップとしてビタミンの補給に役立ちます。
北海道では、ハマナスを食用にするほか、アイヌの人たちは魔除けを願って戸口に立てたり、熊除けとして屋敷や部落を取り囲んだりした歴史を持ちます。
本州の南限地は茨城県鹿島灘の海を見はるかす高台で、花の向こうに光る太平洋の波を数えながら、海坂(うなさか)を指でたどった思い出は、はるかな昔。




これが駒鳥。
イギリスの詩人、ワーズワースの家の石垣に巣作りしていて、
忙しそうに出入りしていました。