りんご   

        りんご   Apple (Malus pumila バラ科リンゴ属 

ヨーロッパ、中央アジアや西アジア原産の落葉樹。
古くから世界中で栽培され、17世紀にヨーロッパから北アメリカに伝わりました。
ニュートンのリンゴ、聖書のリンゴ、ウィリアム・テルとリンゴ、とリンゴにちなんだ話はよく知られるところ。
われわれアンのファンは、「島のりんご」を心に刻んでおきましょう。
りんごは、アンの物語のなかで重要な果物。モンゴメリの初期作、『赤毛のアン』と『アンの青春』の2冊のなかの、植物や樹木が出現する回数を数えてみると、りんごがいちばん多くて、40回以上 も出現します。
作品には、グリン・ゲイブルスのアンの部屋から見える林檎の大木・雪の女王と、果樹園の秋の稔りや、野生のリンゴの描写とがバランスよく配置してあって、作者モンゴメリがりんごに込めた思いを感じることができるのです。
その種類も多様で、クラブアップル ラセットアップル ゴールデンラセットクラブアップル、レート・スウィーティング・アップル、ストロベリー・アップル、夏リンゴ、グラベンスタイ・アップルなど。

アンが「歓喜の白路」と名付けたリンゴの大木の、さし交わした枝え
だの下をくぐる時、花時はまるで 白い花のトンネル。そこを通り抜けるアンは、感激のあまり声も出ません。
 

  ああ、クスバートさん 、あたしたちが通ってきたところは---あの白いところはなんていうの?」
  とささやいた。      『赤毛のアン』 第2章 マシュゥ・クスバートの驚き

"Oh, Mr. Cuthbert," she whispered, "that place we came through--that white place--what was it?"
 

  イギリス・湖水地方。 (2011.6月)

  庭に咲くクラブアップル

  しかしアンは食べられなかった。やっとの思いでバター付きパンをかじり、野りんごの砂糖漬け(crab-apple preserve)をぽつりぽつりとつついてみたが、パンも砂糖漬けもいっこうに目に見えた減り方はしなかった。 
                    『赤毛のアン』 第3章  マリラ・クスバートの驚き

 (But Anne could not eat. In vain she nibbled at the bread and butter and pecked at the crab-apple preserve out of the little scalloped glass dish by her plate. She did not really make any headway at all. )
 

リンゴやジャガイモの保存には、地下室を使いました。
台所の床を上げると、地下室に通じる階段があって、薄暗がりのなか、ろうそくの火を頼りに降りて行きます。日本での「室・むろ」の働きをさせる部屋が家の中にあると、さぞかし主婦の労働は軽減されたことでしょう。 寒冷地ですから、戸外に設けることはできません。

台所から直接井戸の水を汲みあげることができる・・・初めて『赤毛のアン』を読んだとき、この便利さを羨ましく思いました。幼いころ、水汲みをするのが日課でした。・・・おかげで今でも腕っぷしだけは強い・・・。
那須のリンゴ園 
たわわに実ったフジの実が秋の陽に映えて

 

青森県。岩木山の南麓の「アップルロード」
どこもかしこも。リンゴが溢れかえっていて、
「好きなだけ持っていきなさい」と声を掛けられた。
  パイにもってこいのイエローダッチェス種のリンゴが実る。
                     『アンの青春』第24章予言者エイブおじさん

          (
"Those Yellow Duchess trees always bear well," said Marilla complacently)
 
グリーン・ゲイブルスの果樹園に 実るイエローダッチェス種のリンゴは、小ぶりで病気に強く、その分甘味に乏しく酸味のあるリンゴ 。料理用に用いられます。  
この時代のリンゴ栽培は、もちろん無農薬でしょう。まるで現代の奇跡のリンゴ。   

『赤毛のアン』の冒頭、リンド夫人の家から見える景色の中のリンゴの花に始まり、マシュウが駅へアンを迎えに行く道、そしてアンが口も利けなくなったほど感激したリンゴの花のトンネル 。
林檎の物語は続き、季節が巡りくるごとリンゴの花の美しさや香り、実りの秋の鈴なりのリンゴを見るときの、人生における充実感が表現されています。
りんごは、アンのこれからの世界を内にはらんでいるのでしょう。

  ○ 春の夜のかひなのうちに眠らせる木の香花の香さくらの花も  (Ka)