あかざ     

  アカザ 藜  pigweed  (Chenopodium album アカザ科アカザ属)

アカザ(藜)ははっきり言うと「畑の雑草」。
もっとも、古くは野菜として扱われ、私の祖母の時代には、大切な食料でもありました。
ビタミンが豊富で栄養的にも優れていますが、身近にあり過ぎて現在はあまり利用されることがありません。
英語では、ニワトリに与えるため「 Fat Hen」(雄鶏肥やし)と呼び、その名の通り餌にされます。
 

  「そうなの。ぼく、夜のうちに伸びるあかざ草(pigweed)のように大きくなるって、リンドのおばさんが言うよ!」

ポールはしんからうれしそうに言った。・・・ぼくもこうして、のび始めたから、父さんぐらい、背が高くなるまで、のびつづけるつもりなの。ほら、父さんは六フィートもあるんですよ」
・・・・・・・・・・・ミス・ラヴェンダーの美しい頬はさっと紅くなった。一方の手にポールの手をとり、もう一方のでアンの手をとると、だまって家のほうへ歩きだした。
                          『アンの青春』 第27章 石の家の午後

( "Yes, I've begun to grow like pigweed in the night, as Mrs. Lynde says," said Paul, in frank delight over the fact. "Grandma says it's the porridge taking effect at last. Perhaps it is. Goodness knows. . ." Paul sighed deeply. . ."I've eaten enough to make anyone grow. I do hope, now that I've begun, I'll keep on till I'm as tall as father. He is six feet, you know, Miss Lavendar."

Yes, Miss Lavendar did know; the flush on her pretty cheeks deepened a little; she took Paul's hand on one side and Anne's on the other and walked to the house in silence. )
 

  
シロザ          右はアカザ              アオゲイトウ (ヒユ科)↑
 

食べ方は:
若い芽や葉に付いている白い粉がえぐみの元なので、これを振るって取り、茹でてお浸しに。
赤い部分にはシュウ酸が多く含まれるので、良くあく抜きした方がいいでしょう。
ホウレンソウに良く似た味がします。それもそのはず、同じアカザ科なのですから。

アカザの別名・Pigweedで調べると、このアカザ科のアカザのほかに、ヒユ科の和名アオゲイトウ(Green amaranth)がありました。なるほど、こちらもやはり畑や野原の雑草です。
精力的に殖えるところはアカザと一緒で、まったく畑仕事の邪魔者なのですね。
 ほかのアカザ科の植物は、キヌア、ホウレンソウ、テンサイ、フダンソウ、オカヒジキなど。
日本でよく見かけるのは畑のキャビアと呼ばれるトンブリ(ほうき草)。
トンブリは種子を食すのですが、これは立派なお酒のつまみになりますね。秋の紅葉は驚くほど鮮やかです。園芸用に栽培されるのが、「コキア」。ご存じでしょう。
 

アカザが特徴的なのは、草本なのに生長するに従って次第に木本に近く変化すること。長い茎がみるみる伸びて、折ろうにも折れないほど堅くなり、この杖を使うと中風や卒中を予防できるとの言い伝えがありました。

    ・ 髯欲しや藜の杖を突くからは   後藤比奈夫 『めんない千鳥』 (平成17年所収)

堅くなるのは、カルシウムが豊富だからです。
カルシウムを摂ることで、骨粗しょう症を防ぐことが出来る、ついで卒中も起こさず健康を保つと考えた、とこう想像しましたが。どうでしょう。
 
写真にあるように葉の茎部が、鮮やかな紫紅色をし白い粉で覆われているのがわかります。もう1枚の写真のように、この粉が白くシロザと呼ばれるものが本来の種で、アカザはこのシロザの変種。
両方、島に生育していますが、はたしてアンの時代に食用として用いられたのかどうか。
若い芽や葉には健胃作用や強壮作用があるようです。
『炉辺荘のアン』のジュディあたりになると、これを乾燥させ薬用として保存していたかもしれませんね。
あるいは、ニュームーン農場のエリザベスやローラが、台所の天井に吊るし、時々引っぱり降ろして煎じていたかもしれません。

 
こう想像すると、アカザ一つで、心は地球を東へ東へと移動し、島の風景の中に立ち、赤い土を感じることができるのです。

なんと幸せなこと!